『アンフェア the movie』30点(100点満点中)
2007年3月17日、全国東宝系 2007年/日本/112分/配給:東宝

幼稚の一語に尽きる

秦建日子(はた たけひこ)の小説「推理小説」を原作とするテレビドラマ「アンフェア」は、その意外性の高いストーリー展開により高い視聴率を記録した。大酒のみだが抜群の直観力と行動力で事件を解決する女刑事を篠原涼子が演じる推理・刑事もので、今回は昨年10月に放映されたスペシャル版に続く、初の映画化にして完結編である。

公安部総務課の雪平(篠原涼子)は、自分の父親の死にも関連すると思われる警察内部の不正問題を探っていたが、自分の車に仕掛けられた爆弾により娘(向井地美音)が重症を負いショックを受ける。彼女は豊洲の警察病院に娘を入院させるが、その直後病院は完全武装したチーマー風の若者数名に占拠されてしまう。

このテロ事件、当然単純な立てこもりではない。その背後には真の動機が隠されており、雪平にも大きくかかわってくるのだが、そのあたりをヒロインとともに推理しながら楽しむのが本作の趣向となっている。さらに娘の救出劇やSATと犯人との戦いなど、アクション面も映画ならではのダイナミックな見所といえる。

しかしながら、推理ものとしてはあまりにいいかげんな脚本に頭が痛くなる。警察の中に、犯人側への内通者がいるという設定だが、そんなものは本人が登場した時からモロバレである。しかも、どうみても「それ、怪しすぎだろ」と思う事を、警察は誰一人指摘しない。警視総監などは「誰が裏切り者なんだぁ〜」などとわざとらしく叫んでいる。

いくらなんでもこんなバカな演出はない。脚本の都合のために登場人物が動く。それをここまであからさまに客に見せてはいけない。

ほかにも、敵の人数、武装、人質の安否など何ひとつわかっていない捜査の初動段階でSAT(警察の対テロ特殊部隊)が無鉄砲に突入するなど、ありえない展開が目に付く。警官の動きも素人丸出しで、軍事や警察に無知な作り手によるものだと一目でわかる。つまりは、アクション映画としても失格である。

病院のロビーで爆弾を使用してもガラス一枚割れなかったり、都民の8割を殺せるような恐ろしい細菌をブロックする隔離病棟のドアが普通の自動ドア二枚というのも興ざめするところだ。

だいたい、テロ対策で作られた要塞のごときハイテクビルだと最初に言っておきながら、誰でも地下から出入り自由状態というのはどういうことか。これじゃガードマンが常駐している分、東宝本社ビル(日比谷シャンテ隣)の表玄関の方がはるかに厳重ではないか。

そんなわけでこの映画からは、緊張感というものがさっぱり伝わってこない。テキトーに作ってもどうせテレビ視聴者レベルにはわかりゃしないといういいかげんさが目に見えるようだ。

私はテレビドラマの映画化にも、テレビ局による映画制作にも異論を唱えるつもりはないが、それにしてももう少しレベルの底上げというものをしていただかないと、とは思っている。今回指摘した点のいくつかは、脚本の段階で修正できるごく初歩的なミスなのだから、言い訳は一切通用しない。これは、作り手の怠慢、手抜き以外のなにものでもない。ここは、心を鬼にして猛省を促したい。なお、エンドロールの後にも話は続くので、最後の最後まで席にお座りのほどを。



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