『デジャヴ』85点(100点満点中)
Deja Vu 2007年3月17日(土)より全国超拡大ロードショー 2006年/アメリカ/2時間8分/配給:ブエナ・ビスタ・インターナショナルジャパン
ハイテク衛星システムの運用にローテクが必要という面白さ
デジャヴとは、「一度も経験したことのないことが、いつかどこかですでに経験したことであるかのように感じられること」(三省堂・大辞林)という意味だが、実際のところ本作の内容とそれはほとんど関係がない。
ではどんな映画かというと、一歩間違うと重大なネタバレにかかわるのでなかなか説明が難しい。間違っても言ってはいけない"ある一言"が、感想を投稿するサイトなどではフツーに書かれてしまっており思わず目を覆いたくなるが、一応マスコミ関係者には「ここから先のストーリーは絶対書かないでね」と通達が出ている。私も確かにそれは必要だと思う、そんな映画である。
海軍関係者とその家族を乗せたフェリーが何者かに爆破された。事態を重く見た当局は、地元のベテラン捜査官(デンゼル・ワシントン)に対し、極秘裏に開発した衛星地上監視システムへのアクセスを許可する。
このシステムは、各種センサーと偵察衛星からの情報により、エリア内であれば地上地下問わず、どの角度からでも自由自在に地上の映像を鮮明に映し出すというもの。好きな場所(家の中でも!)を、まるでハリウッド映画のように、空撮からクローズアップまで滑らかに撮影することができる。これなら好きなあの子の着替えシーンだってバッチリ。GoogleMAPの10000倍くらい優れた機能を持つものだ。
ところがこれはまだ試作品で、こうした事件捜査に使うためにはいくつかの問題点がある。それは、膨大な情報処理に100時間もかかるため、約4日前の映像しか見られないということ。そして、一度に見られるのは1箇所だけで、巻き戻しもできないということだ。
そのため、4日前のどこを監視すれば事件解決のヒントが得られるか、その判断をしてもらうため現場に土地勘がある主人公が特別に呼ばれたのだ。一見万能なシステムに思えるが、要するに好きなあの子が4日前のどこで着替えをしていたかがわからなければ、覗くこともできないというわけだ。
最新最強の武器を駆使するためには、昔ながらの「捜査員の勘」に頼らねばならない。なかなかうまい設定である。
SFの場合、こうした「制限事項」の存在は重要だ。たとえばウルトラマンは3分間限定という制限があるからこそ、その戦いに緊張感が生まれ、話が盛り上がる。デスノートの夜神月だって、顔と名前を知らなきゃ殺せないから、毎回ヒーヒーいいながら苦労するわけだ。
『デジャヴ』の脚本家はどうやらそのあたりを完璧に理解している模様だ。ハイテク近未来技術そのものをウリにするのではなく、それにより生まれた「ルール」をストーリーに生かしている。これなら大人の鑑賞にも耐える。
『デジャヴ』を見ていると、最初から妙な違和感を感じるように作られているが、それもすべて計算のうちで、途中に大きなどんでん返しが用意され、そこでスッキリするようになっている。
そして、この映画が本当に面白くなってくるのはそこから。スピード感あるストーリーと画面作りによって、片時も目が離せない楽しさを味あわせてくれる。100億円以上もの金をかけているから、カーチェイス(新鮮なある仕掛けがなされている)もすごい迫力だ。やはりハリウッド娯楽映画とはこうでなくてはなるまい。物語上には、よく見ると小さなほころびもあるのだが、それを目立たせないだけのパワーがある。
役者の中では、ヒロインを演じる新人のポーラ・パットンと悪役のジム・カヴィーゼル(「パッション」でイエスキリストを演じた役者だ)がいい。演技派のデンゼル・ワシントンが上手いのは当然だが、二人ともそれにひけをとらぬ魅力があり、全体としてバランスよくまとまった。
この映画のプロデューサーであるジェリー・ブラッカイマーは、ディズニーと組むと「パールハーバー」のような迷作を生み出す危険性を持っているが、今回はその派手志向がいい方向に転がった。SFジャンルにアレルギーがない人が見れば、大いに楽しめるに違いない。