『蒼き狼 地果て海尽きるまで』30点(100点満点中)
2007年3月3日(土)より全国超拡大ロードショー 2007年/日本・モンゴル/2時間16分/配給:松竹

無茶な方向へ突っ走った

一定以上の年齢の映画ファンにとって、「角川映画」というワードは特別に響くものだろう。それは、薬師丸ひろ子や原田知世など映画中心に活躍する女優を育てたり、今で言うメディアミックス戦略により挑戦的な企画を連発したりと、日本の映画史に大きな功績を残した事で知られている。

とくに、映画単独で採算を取れなくても書籍その他関連商品でペイできれば良しとするその戦略は、邦画の枠を超えた大作の製作を可能とし、数々の娯楽映画の傑作(および珍作)を生み出した。オールモンゴルロケという贅沢なドラマ『蒼き狼 地果て海尽きるまで』は、そんな往年の「角川映画」らしさを持つ一品といえる。

ときは12世紀、モンゴル。主人公テムジンが14歳のころ、部族長の父が攻め殺され、一家はどん底の暮らしに叩き落される。それでも家族を支え、やがて立派な青年(反町隆史)へと成長した彼は、かつて結婚を約束した娘(菊川怜)に会いに行くが……。

このテムジンはのちのチンギス・ハーンで、映画は彼の子供時代から、大帝国を築くその全盛期までを壮大なスケールで描き出す。製作費は30億円、エキストラは数万人、CGを使いたくないから本物の馬を5000頭(一頭10万円也)そろえ、大軍勢シーンを表現した。どこから見ても、堂々たる超大作である。

しかし本作は、残念ながら壮大なるダメ映画の系譜に加わること確実だと思われる。数々のミスキャストに加えて絶叫&号泣演技、新鮮味のない映像に作り手の自意識過剰と、その条件は見事なほどそろっている。

そもそも、モンゴル人の映画なのになぜか全員日本語をしゃべる。最近の若い観客は字幕が苦手で、だからこそ邦画が売れているなどという、ほとんどトンデモに近い分析をたまに見かけるが、この映画の企画者は本気でそれを信じているのではないかと心配になってくる。

しかも、途中から反町軍団に加わるAraという韓国の女優さんは、その日本語さえたどたどしい。こうなってくるともう、何がなにやらわからない。どうせなら、彼女だけ母国語でもいいんじゃあるまいか?

とはいえ主役のジンギスカンを演じる反町隆史だけは、このバタくさい映画に意外なほどハマっており、演技も悪くない。むしろ、彼の魅力で2時間16分持っている。

売り物の人海戦術大戦争の場面は、あまりにも似たような映像の作品が多すぎて、個性を出すことができていない。もっとカメラワークなり映像処理に工夫をしないと、いまどきの観客は目が肥えているから驚きはすまい。

題材のチンギス・ハーンというのも微妙だ。プロデューサーの角川春樹の前作『男たちの大和/YAMATO』は近年の愛国ブームをうまくとらえて大ヒットしたが、ジンギスカン鍋ブームが終焉し、横綱の朝青龍による八百長が徐々に明らかとなりモンゴルのイメージ自体悪化している今、このネタはあまりにも間が悪い。

とはいえ、なぜか見ていて憎めないのもまた事実。こんなにつまらない話を思い切り大げさに、とてつもない巨額を投じて作ってしまう。そんな大人のワガママが、なんだかほほえましい。

みなさんもこの作品をみるときは、決して本格派の娯楽超大作は期待せず、30億を投じたバカ自主映画を見るつもりでお出かけになるとよろしかろう。大きく当てるときもあれば外すときもある、そんな"角川映画"らしさを味わうのも悪くない。

復活の日 DTSプレミアムBOX
角川映画の大作志向がほとんど奇跡的に成功した一品。今見ても抜群に面白い、邦画離れしたスケールの超大作。こういうのをまた作ったらいいのに。
男たちの大和 / YAMATO
巨大な大和のセットがなかなかの迫力。まさかほんとに作るとは、じつに無茶しますな。


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