『さくらん』55点(100点満点中)
sakuran 2007年2月24日(土)渋谷シネクイント他全国一斉ロードショー 2007年/日本/111分/配給:アスミック・エース
新鮮味はないものの、いまどきの女性映画としてはそれなり
映画『さくらん』がどんな人に向けて作られた映画なのか、それはきわめてわかりやすい。まずは今回初監督となる写真家の蜷川実花、そして主演の土屋アンナ、音楽(主題歌だけでなく本編の映画音楽も)担当の椎名林檎、さらには原作の安野モヨコ。この4人の名前に反応する人に向けた作品だ。
彼女らは、若い女性の一部にとってある種のカリスマを持つアーチストであり、それが力をあわせてひとつの仕事をするとなれば、これは凄いものが出来上がるに違いない。そう期待するファンは少なくあるまい。実際本作は、彼女ら(主に20代の自立志向の高い女性?)にそれなりの満足を与えてくれるレベルには仕上がっている。
江戸時代、吉原遊郭の「玉菊屋」にきよ葉という名の一人の少女が売られてきた。古い慣習や女が金でどうにかなると思っているバカな男たちに決して屈服しない彼女は、やがてその美貌とまっすぐな性格で吉原のナンバーワンおいらんへと成長する。
花魁時代劇ではあるが、対象が若者向けであるから厳密な考証にはこだわっていない。現代的な色彩感覚で、いまどきの若い子たちの目を楽しませるカラフルな娯楽作となっている。このあたりは監督のセンスを美術スタッフがよく再現しており、いい仕事だなと思わせる。
バックにかかるのは椎名林檎によるバラエティにとんだメロディで、これまたロックやらジャズ調など、時代劇とは思えぬムードのものばかり。ただ、ミスマッチを狙う意図はわかるものの、いくつかのシーンにおいては行き過ぎた部分も感じられた。
映画『さくらん』のこうした個性、見所は、一見斬新なようだが意外性は感じさせず、話の筋も含めてすべては予想の範囲内で私としては肩透かしであった。これだけアクの強い人たちが作る映画にしては、こじんまりとしている印象というわけだ。とはいえ、普段映画をあまり観ない人にとっては、これでも十分楽しめるものであろう。
土屋アンナはどう写れば自分が綺麗に見えるかをよく理解している女優で、本作でも美貌で吉原をのしあがるという設定に十分説得力を感じさせる。ゆったりとした動きで長キセルをふかす姿は、ドキっとするほど色っぽい。
先輩役の菅野美穂と、演出上まったく同じ構図で大胆な濡れ場を演じる場面があるのだが、比べてしまうと土屋アンナの方がはるかに見栄えがする。妙に腰の振り方がなめらかという、個人技の上手さによる部分が大きいのかもしれないが。ちなみにこうした濡れ場やヌードは多いが、男性諸氏が喜ぶようなエロさはない。いわゆる処女喪失シーンでさえ、悲壮感はまったくない。そんなモノを感じるのは男だけだろ、というわけだ。このあたりは、女性監督らしくてとてもいい。
ヤンキー風メイクと言葉遣いでヒロインがタンカをきる姿は、まさにいまどきの女性たちが感情移入するにふさわしい。時代劇の格好をしてはいるが、これは女性による女性のための現代的な女性映画。働いている女性たちが、友達同士または一人で、仕事の後に鑑賞するのにピッタリな一本だ。