『聴かれた女』55点(100点満点中)
2007年2月10日(土)より、ポレポレ東中野にてレイトショー(連日21:10〜) 2006/日本/DV/84分/配給:トランスフォーマー
服を着てても意外に上手な蒼井そら
AV女優が芸能界にステップアップを狙う例は枚挙に暇がないが、成功例は飯島愛などほんのわずかしかなく、コースとしては狭き門だ。そんな中でも比較的健闘している蒼井そらの主演作が『聴かれた女』。彼女は一人暮らしの部屋に盗聴器を仕掛けられたヒロインを演じている。
雑誌編集の仕事をしている若者(大野慶太)は、毎夜アパートの薄い壁の向こうに耳を澄まし、隣室の女の子(蒼井そら)を盗聴している。彼氏と愛し合う声などに興奮しつつも男は、最近彼女が何者かによる脅迫電話に悩まされている事に心配を寄せていた。
盗聴・ストーカーものであるが、この男はこっそり聞いているだけではなく、職業柄のアングラ人脈を利用して彼女の部屋に侵入、盗聴器等をさぐってみたり、隣人という立場を利用して実際に彼女に近づいていったりする。
一方、彼女を盗聴、盗撮して脅迫する犯人の側も、決して引っ込み思案のストーカーというわけではなく、普通に女の子をナンパできそうな雰囲気の男。それでも彼らは身近な女性を盗聴し、興奮する。こうした性癖の表現は妙に現代的で新鮮だ。
盗聴者vs.脅迫者の変態対決という構図で、観客はその一方の変態に感情移入して見ていかねばならないという面白い趣向になっている。
蒼井そらは、自然体の演技がなかなか上手。アダルトビデオの前半にオマケのようについている、早送りされる運命のおざなりなドラマ部分とはまったく違い、いかにも隣に住んでいそうな優しげな女の子を好演する。とはいえ、服を着ている間は「隣の女の子」だが、脱ぐと肌の綺麗さ、スタイルの良さで普通の女の子とは大きく違う事がよくわかる。
レイトショーでの鑑賞に適したセクシーシーンも多数あり、とくに濡れ場は一般映画とは一線を画す直接的な表現のもの。相手役の俳優の下着の中に手を入れたり等々、モザイクこそ入らないがエロ度は相当高い。しかし、大げさにあえぐなどのAV的な演出は行っておらず、あくまで抑えた形のもの。こうした場面の演出は、蒼井そらが積極的に意見を出し、撮影時もリードしたという。監督が「頼りになった」というくらいだから、さすがである。
その山本政志監督は、作品のためなら何でもやるといったタイプの個性派で、海外の映画祭でも評価される人物。街中での大胆なゲリラ撮影が持ち味で、観客としては映像を見ながら「ここもきっと無許可だろうな。無茶するなあ。」と想像しながら見る楽しみがあるが、今回はほとんどがアパートの部屋で繰り広げられるドラマのため、そうした魅力は少ない。
低予算のビデオ映画でありながらも工夫されたいくつかの映像表現は、残念ながらそれほど印象に残るものではないが、なんといっても蒼井そらに求心力があり、ファンなら彼女をずっと見ていられるだけでたまるまい。そういう人にとっての満足度はもっと上がるだろう。
そうした方面?から強くリクエストされたため、私も今回は追加でレビューを書いてみたが、レイトでちょっとエッチな映画を見たいときには意外と悪くないチョイスではなかろうか。