『エクステ』65点(100点満点中)
2007年2月17日、全国ロードショー 2006年/日本/カラー/108分/配給:東映

気の弱い女の子(エクステ装着済み)を誘うに最適な一本

ボディビルダーが行う大腿四頭筋の伸展運動であるレッグエクステンションとは、少なくともまったく無関係であろうとは思っていたが、ここでいう『エクステ』とは「ヘアーエクステンション」、すなわちお洒落な女の子がつける付け毛のこと。私などは、某ディレクターが見るたび鈴木みのるカットなどと呼ぶ、後頭部だけ長い坊主頭なのでまったく無縁なアイテムだが、巷では結構流行っているそうだ。

『エクステ』は、その題名どおり付け毛をめぐる恐怖体験を描くホラームービー。人毛で作ることもあるヘアエクステだが、もしもその材料となる毛髪の持ち主が恐ろしい怨念を持って死んだ少女だったとしたら……。これは、愛用者にはたまらない設定であろう。

横浜港のコンテナから、髪の毛に埋もれた少女の死体が発見された。死体安置所の管理人(大杉漣)は、そのあまりに美しい直毛に見惚れ、そのまま切断してエクステを作る。男は大の髪の毛フェチで、これまでも同様にして美容院に卸すなどしていた。そんなある日、男はその死体にも負けないほど美しい髪の少女(栗山千明)を街で見かけ、彼女が美容師だと突き止める。

この上なく気持ち悪い変態男に狙われる美少女という構図だ。あまりに気に入って家に持ち帰ってしまった死体の髪が日々伸び続けたり、死体で作ったエクステの使用者が次々と怪死したりと超常現象もいくらか出てくるが、あくまでこの基本構図を守り、現実感ある恐怖を求めた点は正解だった。ときおりユーモラスでさえある変質者と、まだ幼い部分を残しながらも自立している女性。二人の人物造形には力が入っている。

栗山千明演じる新米美容師は、同じく駆け出しのダンサーの女友達とルームシェアしてつつましく暮らしているが、留守中に勝手にあがりこみ、金を盗もうとするようなどうしようもない姉がいる。姉はまだ小さな自分の娘にドメスティックバイオレンスをふるい、それを知ったヒロインはその娘を救おうとするが、その様子もどこか違和感がある。その理由は徐々に明らかになるのだが、この手のホラー映画にしてはなかなか深みのあるキャラクター設定だ。

このように、根幹となる人間ドラマをきちんと作ってあるので、『エクステ』はホラー部分が平凡な割にそこそこ見られる。むろん、いまどきの映画らしくCGを効果的に使ったショックシーンにはそれなりの迫力もある。プロテアのCMが気持ち悪くて見られない私のようなものにとっては、目玉や舌から髪の毛が生えてくるこの映画の心地悪さは相当なものであった。

栗山千明は、怪演という言葉がぴったりな大杉漣を向こうに張って堂々としており、いつもながらとても良い。サラサラのロングヘアは、この変態が一目ぼれする展開に強い説得力を持たせるほどに綺麗。「妖怪大戦争」の時のようなセクシーな見せ場はないが、清純派的な魅力をたっぷり味わえる立派な主演作といえる。

先ほど予告編をみたところ、あまりの煽りっぷりに笑ったが、そんなものはあてにせず、地味な人間ドラマを楽しむつもりで、気軽にお出かけになるとよろしかろう。ただ、純情な女の子は、これを見たらもうエクステをつけられなくなるかもしれないが。



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