『ドリームガールズ』60点(100点満点中)
Dreamgirls 2007年2月17日、日劇3ほか全国ロードショー 2006年/アメリカ/配給:UIP映画

ちょいと予備知識が必要なミュージカル

今年の米アカデミー賞には、ブラッド・ピット主演『バベル』で印象深い演技を見せた日本の菊地凛子が助演女優賞にノミネートされ、大きな期待を集めている。しかし、彼女以上の本命といわれるのがこのミュージカル映画『ドリームガールズ』で圧倒的な歌唱力を見せつけるジェニファー・ハドソンだ。さて、主演のビヨンセ・ノウルズをさえ食ったと評判のその演技力はいかなるものか。

1962年のアメリカ、デトロイト。成功を夢見る少女3人のグループ「ドリーメッツ」が、人気歌手(エディ・マーフィ)のバックコーラスに抜擢された。メジャークラスの実力を持つリードボーカルのエフィー(ジェニファー・ハドソン)を中心にした3人に、無限の可能性を見たカーティス(ジェイミー・フォックス)は、全財産を「ドリーメッツ」のマーケティングにつぎ込むのだった。

さて、その甲斐あって彼女らは全米から注目を集めていくわけだが、あるときカーティスはエフィーにクビを宣告する。彼女は自分の恋人でもあったのだが、時代の先を読むカーティスは、伝統的でソウルフルなエフィーの歌より、キュートなルックスと声質のディーナ(ビヨンセ)をリードボーカルにグループを再編成することを企んでいたのだ。

さて、こうしてドリーメッツ(=ドリームガールズ)からひとり離脱し、落ちぶれていくエフィーと、成功の階段を駆け上るディーナの物語が交互に繰り広げられる。形式は伝統的なミュージカル映画のそれで、ドラマの途中で突然歌い、踊りだすという例のアレだ。楽曲がブラックミュージックという点がポイントか。

『ドリームガールズ』の見所は一にも二にもこの音楽で、あらゆる点でこのミュージカルのモデルとなったモータウンのそれを好きな人でないとどうにもならない。

ちなみにモータウンとは、ブラックミュージックを中心としたレコード会社の名前。本作で描かれるように、デトロイトのいち零細企業として始まり、瞬く間に全米を風靡したことで知られる。とくに60〜70年代の彼らは、音楽史の中ではそれまでのメッセージ性の強い黒人音楽を、白人その他に広く受け入れられるようなポップなものへと変化させたと評価される。

なぜここでそんな事を書くかというと、このバックグラウンドを理解していないと『ドリームガールズ』のストーリーを大きく誤解する可能性があるからだ。

たとえば何も予備知識がない人がこれを見ると、重要人物のエフィーについて、やたらとまわりに反発するワガママ放題のバカ女に見えてしまうかもしれない。カーティスが冷静で論理的な、すこぶる優秀なビジネスマンなのに対し、やりたい音楽がどうだのとくだらない事を主張して困らせるアーティストたち、という構図に見えてしまうに違いない。作詞家もディーナも全員がそう見えるはずだ。

しかし、デトロイトが米国の中でも黒人の比率が多く(その原因も映画の中で実はチラと描かれている)、貧富の差も激しい都市という点を考慮すると、また違って見えてくる。ここで苦労しながら育ったドリームガールズやスタッフ、中でもエフィーにとって、カーティスのやり方は金持ちの白人たちに媚びているようにしか見えず、許しがたかったのだ。同時に、カーティスがなぜあんな卑怯な手段を使ってまで営業したのかも、この街から黒人未踏の道を切り開かねばならなかった彼の立場を想像すれば理解できるはず。

残念なことに、映画『ドリームガールズ』はそうした点について説明不足で、英語の苦手な日本人にとってはよほどの想像力を働かせないとわかりにくい。米国では受けても、日本では受けにくいタイプの作品だ。ビヨンセやジェニファー・ハドソンの物凄い歌に圧倒され、大喜びする人も多かろうが、決してそれだけがこの映画の魅力というわけではない。

ジェニファー・ハドソンの助演女優賞ノミネートについても、そんなわけで私はさほど注目してはいない。確かに歌は抜群にうまいが、助演女優賞とは歌唱力で決まるわけではないはずだ。むしろ、モータウンサウンドのイメージを体現した(演技した)という点では、ビヨンセの方が上とすら思える。彼女の歌う「ワンナイト・オンリー」ディスコバージョンはとても良かった。個人的には、ことさらアカデミー賞をありがたがる必要など無いと思うが、台詞なしのろうあ者役であれほどの名演を見せた菊地凛子がジェニファーハドソンに負けたら、ちょいと気の毒な気がする。

まとめると『ドリームガールズ』はモータウンと当時の米国について多少の予備知識がある方向け(フローレンス・バラードの名を知っているとなお良し)、その中でもミュージカル映画に抵抗のない人がみれば、きっと楽しめる。これが舞台ミュージカルであればまた違ってくるが、日本人が見る外国映画として評価すると点数はこんなところか。

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