『天国は待ってくれる』30点(100点満点中)
2007年2月10日、丸の内ピカデリー2他全国松竹・東急系ロードショー 2007年/日本/105分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ、松竹

まるで安テレビドラマのよう

『天国は待ってくれる』は、久々の真性ダメ映画と言ってよい。ただでさえ日本の映画業界は人材不足気味なのに、今なら商売になるからといってそのキャパシティを超える数を作っている。その無理が限界までくると、こういう作品が出来上がる、そんな見本だ。

東京の築地で生まれ育った宏樹(井ノ原快彦)、薫(岡本綾)、武志(清木場俊介)の3人は、子供時代に一生変わらぬ友情を誓い合った親友同士。お互い離れたくないから、宏樹は朝日新聞社に、薫は銀座通りの鳩居堂に、武志は築地市場という至近へ就職した(註:この3箇所はすべて徒歩圏内)。とはいえ武志だけは明け方から昼までという勤務時間だから、3人そろって会う事は少なくなっていた。そんなある日、武志は二人を呼び出し、宏樹の前で薫に突然プロポーズする。

この後の流れが凄い。薫は強引なガキ大将タイプの武志より、ホントは大人しいが優しい宏樹を好きなのだが、思わずその場でプロポーズをOKしてしまう。宏樹も内心薫を好きなくせに「う、うん、お前らお似合いだよ」などと言う。相手の気持ちなどまったくわかっていない武志くんは、奇声をあげて真冬の海に飛び込んで喜ぶ。脚本、演出、演技。すべてのダメさが融合された、たぐいまれな名シーンの誕生である。

しかも武志ときたら、結婚式の当日になっても、なにやら配達の仕事を続け、都合よく、いや運悪く交通事故を起こし「植物状態」(今どきの医者はこういう表現をしないと思うのだが……)となる。結局誰も結婚できず、3人(といっても一人は昏睡状態だが)の甘酸っぱい三角関係が延々と続くというわけだ。

これ以上はあえて伏せるが、その後も超自然的偶然が次々と起こり、韓国ドラマファンでさえ腰を抜かすようなご都合主義が展開される。本当に病気の人がこれを見たら、命や不治の病があまりに気安く道具として扱われている事に泣くだろう。日本映画が韓国のマネをしてどうするのだ。

恋と友情の狭間で悩むこの3人は、女の子の実家の喫茶店を溜まり場にしている。保護者同士も仲がよく、まるで全員がひとつの家族のようだ。そんな本作の脚本は、夏休み中の高校生が、大好きな『タッチ』にインスパイヤーされて、後先考えずに書いたかのようだ。この能天気さは、もはや貴重な才能ではないかとさえ思える。

『天国は待ってくれる』における大きな問題は、ユーモアが欠如している点だ。そんなに「お涙頂戴映画を作る」というコンセプトを成就させたいのならば、悪いことは言わない。かように大げさな「泣かせ」を押し着せるより、観客を笑わせることを先に考えたほうがいい。笑わせることは泣かせることよりずっと高度だが、それが出来れば(先に笑わせて観客の心を無防備にさせられるので)「お涙頂戴」など簡単に作ることが出来る。

『天国は待ってくれる』は、史上初めて営業時間中の築地市場でロケを行った。もうすぐ移転でなくなってしまうこの場所をスクリーンに収めた事は大いに意義あることと思う。また、同じく史上初めて朝日新聞社の内部で撮影された劇映画でもあるそうだ。

ヒロインの勤務先である鳩居堂も含めて、どこも私にとっては馴染み深い風景であり、そうした場所が舞台というだけで大いに楽しめたが、いかんせん内容がまずかった。しかし、ここまでやってくれるとなんだか、逆の意味で爽快感すら感じさせる。決して、見て悪い気分にはならない。むしろ、思わずアッパレと言いたくなる一本であった。



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