『スターフィッシュホテル』45点(100点満点中)
Starfish Hotel 2007年2月3日シネマート六本木にて公開 2005年/日本/98分/PGー12/配給:ファントム・フィルム、100meterfilms

難易度の高い技に挑戦はしたが

『スターフィッシュホテル』は、いくつかの意欲的なチャレンジを行った個性的なドラマだ。すでに海外のいくつかの映画祭では高評価も得ている。在日英国人の監督と、同じく外国人撮影監督によるちょっと変わった日本の風景にも注目。

佐藤浩市演じるサラリーマンは、設計事務所で働く妻と二人、なんら生活に不自由することなく優雅に暮らしている。妻とは熱烈に愛し合っている風ではないが、それなりに安定した関係を保っているように見える。彼の趣味はある作家のミステリー小説を読むことであったが、最近よく見る悪夢はそのせいだと妻に揶揄される始末であった。そんなある日、突然妻が失踪し、主人公は残された彼女のバッグからある探偵社の名刺を発見する。

この映画を一言で説明するのは難しい。ミステリ的な失踪事件の謎解きを軸としつつ、夫自ら妻の行方を捜索するくだりはハードボイルド的。主人公が悪夢に悩まされ、現実との境界があいまいになっていく展開は不条理なダークファンタジーともいえる。

監督は人間の持つ二面性、中でも誰もが心の中にひた隠す「闇」の存在について描きたかったという。だからこそ、論理性の塊であるミステリと、抽象的かつ哲学的な不条理劇という、食べ合わせの悪そうな二つのジャンルをミックスする試みを行ったのだと思われる。なお、個人的な印象では、やや後者の配合比率が高い気がした。

ロジカルに謎を解いていく事が大きな魅力であるミステリに、夢やファンタジーといった超常的な要素を混ぜ込む手法はさほど珍しいものではない。……が、難易度はすこぶる高く、ほとんどの場合、ミステリ側の魅力を削ぐだけとなる可能性が高い。

本作もその落とし穴にはまっている点は残念。柄本明がうさぎの着ぐるみで演じる奇妙なキャラクターや、何かと主人公にかかわってくるスターフィッシュホテルなどの不気味な存在も、渾然としたこの映画のムードの中では相対的に印象が弱く、その魅力や演出効果も鈍くなりがち。

そもそも、監督が描きたい「人間の二面性」なるテーマじたいが魅力薄。人が本音とタテマエを持つのは当たり前の話で、その先に意外性はない。ならばストーリーの面白さで補ってもらいたいところだが、それは前述のとおり、あまり期待は出来ない。

残る魅力は、外国人監督の視点で表現する日本の都市および東北の映像だが、確かに印象的で、よくこうした場所や建物を見つけたなと感心はするが、それだけではさほどのアドバンテージにはなるまい。映画祭では美術賞を取ったそうだが、それがこの作品の限界か。いずれにせよ、一筋縄ではいかないタイプの映画を見たい人にのみ、すすめておきたい。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.