『愛の流刑地』40点(100点満点中)
2007年1月13日、日劇PLEXほかにてロードショー 2007年/日本 配給:東宝
演技達者の二人に不満は感じないが、なにか物足りない
日経新聞朝刊に連載された渡辺淳一の同名小説は、朝から下半身を元気にさせてくれる描写が満載で、オジサマたちの間でひそかに話題となっていた。やがてそのブームは映画界にも飛び火し、このたびめでたく一級の役者をそろえて映像化されることになった。それがこの「愛の流刑地」、通称愛ルケである。
かつてベストセラーを書いた作家(豊川悦司)が、人妻(寺島しのぶ)を殺したとして逮捕された。二人は愛人関係で、しかも交わっている最中に扼殺したという。男は彼女が「殺してくれ」と懇願したと主張、愛しているからこその行為だったと語る。二人の関係と真相を探る女検事(長谷川京子)は、不可解な男の主張にやがて説得力を感じ始める。
愛し合っていながらなぜ女は「殺して」というのか、女検事がそれを調べ、やがて共感していくくだりに、男女の愛を意外な角度から描くこの物語のテーマがある。
とはいえ、映画はそのあたりをお手軽になぞっているので、まったくもって話に深みは感じられない。何しろこの大事な役どころに、一番演技力の頼りない人をキャスティングしているのだから厳しい。観客は、ハセキョンのやたらと胸の谷間の開いた服が印象に残るばかりだ。
お話としては、裁判の進行とともに、トヨエツと寺島のカップルのなれそめ、どう愛をはぐくんできたかが回想の中で描かれる。あまりサスペンスを生み出さない地味目な演出ながら、お客さんが飽きない程度の間隔で二人の前張りナシの濡れ場が挿入されるので退屈はしない。この映画の一番の緊張感は、「次のハダカはいつなのか」と身構えることによって生まれている。なんともコンセプトがわかりやすい。
寺島しのぶは大胆にそれらを演じ、とくに下手っぴな腰のふり方などは、いかにも普通の主婦っぽくていい感じ。憧れの作家と仲良くなっていくことで徐々に美しくなっていくヒロインの姿を、見た目からもうまく役作りしている。
ただ言わせてもらえば、登場した段階のヒロインはちょいとその見た目の部分に難があり、トヨエツが一目ぼれする説得力に欠ける。そもそも寺島は男を狂わせる魔性の女というよりは、男に狂って自滅するキャラが似合う女優だ。つまり、今回のような役柄は彼女にとっては苦手分野。そしてその克服は、惜しいことに次回作以降ということになりそうだ。
ただ、彼女が出ることによって、この奇抜な不倫物語に妙なリアリティが出たのも事実。2時間足らずのデートのため新幹線で長距離を往復する男の気持ちや、ホテルデート以外のはじめての旅行のときめきなども、大いに共感できる形に仕上がっている。世界の中で自分たちだけが孤立しているような心地よい恋愛の孤独感がうまく出ている。
ちなみに私は、この映画をいったいどんな人が見に来るのだろうかと一般の映画館にも出かけてみたが、意外なことに若い女性同士のお客さんがかなりの割合で見受けられた。あまり彼女らが楽しめる映画とは思えないのだが、はたして何を期待してやってきたのだろう。