『悪夢探偵』40点(100点満点中)
2007年1月13日シネセゾン渋谷他全国拡大ロードショー 2007年/日本/1時間46分 製作・配給:ムービーアイ・エンタテインメント
主人公の特殊な性格設定が効果をあげていない
塚本晋也監督は、個性的な作風が海外で高く評価されている映画作家だが、新作『悪夢探偵』は娯楽に徹して作ったという。ジャンルはサイコサスペンスで、主演は松田龍平。監督自身も重要な役柄で出演している。
眠ったまま、自身を切り裂く奇妙な自殺事件が立て続けにおきる。しかも二人とも、携帯に同じ通話先への記録が残っていた。担当する女刑事(hitomi)は捜査を進めるうち、二人はこの人物に夢の中で暗示をかけられたのではないかと推測する。そこで彼女は他人の夢に入り込める超能力者(松田龍平)に協力を頼むが、他人の薄汚い内面に嫌気が差している男は、まったくその気はないようだった。
この監督が作るヒーロー物だから、もとより一般受けを考えているわけはないと思っていたが、インタビュー等を読むと今回ばかりはそうでもなさそう。意外な気持ちで鑑賞したわけだが、終わってみれば何のことはない、いつもどおりの塚本映画であった。
松田演じる悪夢探偵は登場当初からどどーんと暗い男で、到底この種の映画の主人公とは思えない。神経症のごとくいやだいやだとつぶやき続け、ぎりぎりまで逃げ回った挙句、結局自分以外に誰もできない仕事だということで、やむを得ず悪夢に侵入する、そういった性格である。
この変わった性格設定が何がしかの形で物語に生きていればよかったが、個人的にはじれったいだけに感じた。今回の松田の演技および監督の演出からは、何か突拍子もないことがおきるといった緊張感はまったく感じられない。よって、この主人公設定はぐだぐだ事件の解決を遅らせているだけにしか見えず、面白みにかける。ひねくれているわりには全てが予想の範囲内。これではいけない。
低予算でもいろいろと工夫してはっとさせる映像表現はいつもながら巧み。何も出てきていないのに、音とカメラの動き一つで何者かに襲われる怖さを表現するあたりはさすが。しかし、残念なことにクライマックスで実際にナイフを持った男が画面に出てきたとたん、その得体の知れない怖さは失われてしまう。
昭和の香り漂う群馬県庁の建物を警察に見立てた撮影など、非リアルなビジュアルは面白いが、賛否両論だろう。
ヒロイン役のhitomiは、マラソンの高橋尚子が大好きと語る「LOVE 2000」を歌っていたエイベックスの歌手。今回塚本監督たっての願いで、非現実と現実をつなぐなかなか難しい役柄に挑戦した。演技力には期待せず、雰囲気だけを見に行くとよろしい。
今回、松田龍平を迎えての娯楽映画ということで、塚本監督はかなり力が入りすぎたのか、どうも空回りしている印象。死の恐怖や自殺する人の絶望など、彼の得意そうなテーマを含んでいるにもかかわらず、だ。もともと当たり外れのはっきりした映画監督だが、本作もかなり、見る人を選ぶ出来となっている。