『鉄コン筋クリート』75点(100点満点中)
TEKKON KINKREET 2006年12月23日(祝)、渋谷東急ほか全国松竹・東急系にてロードショー 2006年/日本/カラー/111分/配給:アスミック・エース

難しい原作を違和感なくアニメ化した

アニメーションというものが面白い理由は、ひとえに絵が動くから。実写では何の感動もない人物の単純な動作でさえ、それなりに面白く見られるのは、この"絵が動く"という原始的な驚きをいまだに我々が感じるからといっても過言ではない。

むろん、そんな単純化ができるほど現在のアニメーション作品は簡単なものではないが、それでも『鉄コン筋クリート』のような(そう簡単にアニメ化できそうにない)個性的な絵柄をいとも簡単に動画にしてしまった本作のような映画を見ると、そんな娯楽性の原点を意識せずにはいられない。

昭和的な懐かしさを擁しながらも非現実的な架空の街「宝町」。そこで盗みやらを働きながらたくましく自活する孤児のクロ(声:二宮和也)とシロ(声:蒼井優)。ヤクザでさえ一目置く彼らの耳に、あるとき宝町再開発のニュースが届く。それに合わせるように街に不穏な空気が流れるのを察知した二人は、やがて怪しげなデベロッパーから街を守るための争いに巻き込まれていく。

この長編アニメ映画を見終わると、まずはどっと疲れる。それは、徹底的に描きこまれた宝町のディテールと、クロとシロの(直線を廃した)独特のキャラクターデザインが延々と動きつづける不思議さに酔いしれてしまうから。どことなくノスタルジーを感じさせる街のデザインセンスにはオリジナリティがあるし、ブラジル映画の『シティ・オブ・ゴッド』を参考にしたという"手持ちカメラ風映像"の斬新さもしかり。ほかでは見られない、しかも品質がきわめて高い「日本のアニメーション映画」の満足感を存分に味わえる一本といえる。

ただし、松本大洋の原作漫画によるストーリーは、単純明快な勧善懲悪のような類ではなく、二人の内面をかなり特殊な進行により描くものであるから、マンガ好きでない一般の人にはすすめにくいのも事実。そうした人々は、この映画には最初から"お話の面白さ"を求めるのはやめ、アニメーションそのものを楽しむつもりで出かけるとよい。そうでないと、中盤以降に停滞する流れの中で退屈する可能性が高い。また、暴力描写が激しいから、子供向きではない事もここに書いておく。これは、オトナがオトナと見に行っても大丈夫なタイプの作品だ。

声優は、『硫黄島からの手紙』の好演で米アカデミー賞に絡むか?! とさえ囁かれる「嵐」の二宮和也と、ヒット中の『フラガール』の主演で相変わらず一部に熱狂的な支持者がいることを証明した若手の演技派女優、蒼井優。どちらも安定した芝居を見せている。個人的には蒼井優のシロは、もはや蒼井優そのものでかなり苦手だが、おそらく一般の人の評価は高いものとなるだろう。

『鉄コン筋クリート』は、お話として面白いものはないのだが、原作マニアのマイケル・アリアス監督の魂を感じさせる、物凄い出来栄えのアニメーション。誰もが現代の日本製アニメーションの技術力の高さに驚くこと間違いない、一見の価値ある一本である。



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