『ライアンを探せ!』30点(100点満点中)
The Wild 2006年12月16日(土)より丸の内プラゼール他全国ロードショー 2006年/アメリカ/カラー/配給:ブエナビスタインターナショナル(ジャパン)

お手軽品にもほどがある

今年の冬シーズンにディズニーがぶつけてきたのは、本国アメリカで4月に公開され、初登場4位と惨敗したこの『ライアンを探せ!』。アチラでもあまり評判のよろしくないコイツを、お正月映画の手札にせざるを得ない今冬の彼らはかなり厳しい。

ニューヨーク動物園一の人気者で、唯一の野生育ちということで、仲間内からも尊敬されているライオンのサムソン(声:キーファー・サザーランド)。その息子ライアン(声:グレッグ・サイプス)にとって、偉大な父は大きなコンプレックスとなっていた。そんなある日、アクシデントからライアンがトラックに連れ去られてしまう。サムソンは最愛の息子を救うべく、キリンやコアラ、ヘビらの親友たちと共に園を抜け出し、夜の大都会に向かうのだった。

さて、サムソンには実は仲間にも言っていない秘密がある。それは、彼が皆が信じているような野生生まれではないという事実。動物園にいる飼いなさられた動物たちに対して、野生を知っているというのは何ものにも代えがたい大きな勲章。だからそれが本当は違うだなんて、皆の心の支え、リーダー的存在として、決して言うわけにはいかなかった。

息子に対する威厳の源泉でもある「野生うまれ」という虚構に、そんなわけでサムソン自身も苦しんでいる。考えてみれば、どこの親だって、似たような悩みを持っている。それを劇中の動物親子の設定に取り入れることによって、大人の観客たちの共感を得、子供たちと一緒に楽しんでもらおうと試みたわけだ。

しかし、そんな小細工うんぬんをいう以前にこの映画、あまりにも『マダガスカル』『ファインディング・ニモ』に似すぎちゃいないか。どちらもまだ新しく、おまけに『ニモ』は自社製品(制作はピクサー)だ。元ネタをどこかからパクる手癖の悪さはディズニーのお家芸だが、よりにもよって自分トコから持ってくるとは、情けないにもほどがある。

おまけにこの映画はそのどちらよりも質が低い。二つを足して4で割ったくらいの薄味品である。腹が極端に減っている時にインスタントラーメンを作ったら、欲張ってお湯を入れすぎてとんでもなく薄まってしまった失敗作のような印象といえる。

むろん、アニメーションの技術自体は高いから、リアルぬいぐるみ風のキャラクターたちの動きに違和感はない。ヌーの模型に襲われるときの真に迫る恐怖や、凶暴プードルとの追跡劇など、いくつか印象に残る良い場面もなくはない。

しかし、動物もの自体すでに飽和気味でまったく新味が無く、おまけにストーリーがどこかで見たようなものとくれば、さすがにフォローのしようが無い。

この映画をはじめ、昨今のディズニーには、定番としての良さというものがない。毎回書いているが、向こう50年間愛されるキャラクターを作ろうという気概が無い。天下のディズニーに、よもやそれをやるだけの資金的余裕が無いわけではあるまい。これでは怠慢と取られても仕方が無い。

『ライアンを探せ!』は、結果的にはピクサーの評価を上げるだけの結果となるに違いない。これを見れば、ピクサーの諸作品のレベルの高さがよくわかる。映画館の帰り道、「帰ってからニモのDVDみようね」と車中で会話する母子の姿が想像されるようで、なんだか頭を抱えたくなる。



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