『犬神家の一族』40点(100点満点中)
2006年12月16日〜有楽座系にて公開 2007年/日本/配給:東宝

前作のDVDを見ればすむ、というのでは少々物足りない

横溝正史の小説『犬神家の一族』は、ある程度以上の年齢層にとっては、日本で一番有名なミステリのひとつだ。横溝正史は、いわゆる本格もの(探偵役が論理的にトリックを暴き、犯人を当てるタイプの推理小説)の名手として、数々の傑作を残した推理作家。本作は、彼が生み出した名探偵、金田一耕助が活躍するシリーズの代表作。映画としては、76年に作られた同名作品のリメイクとなる。

犬神財閥の創始者が死去した。遺言には、なんと莫大な遺産をお気に入りの他家の娘(松嶋菜々子)に譲るとある。相続の唯一の条件は、彼女が直系である3人の孫の誰かと結婚すること。銭ゲバの親族たちは、あまりに非常識な内容に大激怒。案の定、凄惨な連続殺人が発生、名探偵金田一(石坂浩二)が真相を探る展開となる。

なんともまあ、無茶な内容の遺言を遺したものだ。このオッチャンは、相続を面白がってるだけなんじゃねえかと思ってしまうが、それはともかく、血族ならではの止め処もない嫉妬、憎悪がよく描かれたストーリーだ。あまりにも有名な話だから、謎解きや犯人あての楽しみがないのは惜しいところだが。

なお、この映画は市川崑監督によるセルフリメイクで、主演の金田一役も76年版と同じ石坂浩二。30年の月日を感じさせない若々しい演技にはビックリだ。

細かいカット割やアングル、セットの雰囲気なども相当部分が共通で、ほとんどコピーといってもいいくらいのもの。前作をベースに、細かい部分をカットして少々短くしたといった感じだ。個人的には、珠世役の松嶋菜々子が、可憐さでも脱ぎっぷりでも前作の島田陽子に負けている点が残念至極。

その他のキャストも、現在の邦画としてはかなりの豪華版。とくに富司純子から深田恭子まで、幅広い年代のスター、演技派が顔をそろえた女優陣はとても華やかだ。しかもみな、持ち味をよく発揮しており魅力たっぷり。

殺人のド派手な見立て(湖面から突き出る下半身や、庭に置かれた生首)や、見るからに怪しげな登場人物(ゴムマスクで顔面を隠した長男)など、昔ながらの本格推理らしい、おどろおどろしい怪奇ムードも健在。今となっては完全に時代遅れではあるが、それを下手にリファインせずに作り直したあたりは、好感度大だ。映像にかけるこだわりはさすが市川監督で、とくにこの映画には通常の倍以上の製作期間をかけて取り組んだという話だ。前作の名場面、名セリフの再現を期待する人々にはたまらないだろう。

金田一耕助は、若い人には「じっちゃんの名にかけて」の方が有名かと思うが、そうした年代の人はこれを見て、「名探偵のくせに全然事件をふせげてないじゃん」と感じるに違いない。

しかし、そのツッコミだけは禁句である。金田一耕助は、日本ミステリ史上、いや下手をすると世界中の推理小説に登場する名探偵の中でも、殺人を防げないことで有名な探偵なのだ。もちろん、最後にはきっちり謎解きを決めてくれるのだが、途中では景気良く連続殺人を許してくれるので、読者は面白くてたまらない。

新『犬神家の一族』は、新版ではあるが台詞まわしは大仰で、音楽も監督の演出も昔と同じだから、完成したときからまるで古い映画のようだ。CG全盛のいわゆるJホラーとは一線を画す昔ながらの怪奇サスペンスであり、その古っぽさをうまく生かせればよかったが、ただ古臭いだけで終わっているのが惜しい。ストーリーテリングのわかりにくさも、むしろ前より悪化している印象で、どうもすっきりしない。

それでも、こうした「昔の2時間サスペンス風味」のクラシカルな映画は、いまどきなかなか無い。前作をこよなく愛する人なら、オープニングの巨大明朝フォントとテーマ曲を見ただけで涙モノであろう。個人的には、リメイクするなら新しい観客に訴えるだけの何かを加えるべきで、これでは何のためにリメイクしたのかよくわからないとさえ思うのだが、いかがなものか。

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