『エラゴン 遺志を継ぐ者』55点(100点満点中)
Eragon 2006年12月16日(土)、日劇1ほか全国超拡大ロードショー 2006年/アメリカ/配給:20世紀フォックス映画

史上最高のドラゴン萌え映画

『ロード・オブ・ザ・リング』の大成功のおかげで、ヨーロッパの伝統的ファンタジーが世界中の大勢の人に受け入れられた。せっかく出来たその土台を放っておく手はないということで、『ナルニア国物語』など有名長編も続々映画化されている昨今だが、この『エラゴン』も同じように期待される、大型ファンタジーシリーズのひとつだ。

15歳の少年エラゴン(エド・スペリーアス)は、森で輝く青い石を見つける。じつはその石は、エルフ族の娘アーリア(シエンナ・ギロリー)が敵の手に落ちる直前、空間転送したドラゴンの卵だった。やがてブルードラゴンのサフィラ(声:レイチェル・ワイズ)が生まれるが、同時に邪悪なドラゴンライダーのガルバトリックス王(ジョン・マルコヴィッチ)が差し向けた刺客により、エラゴンの家族が犠牲となる。

原作の『エラゴン』シリーズの作者のクリストファー・パオリーニは、なんとこれを17歳のころ書き上げたというのだからびっくり。日本の乙一(この人も17歳デビュー)を彷彿とさせる早熟な作家である。

魔法と剣、そしてドラゴンという昔ながらのファンタジー世界をベースに、ドラゴンライダー(乗り手)が死ぬとドラゴンも死ぬという、一心同体ルールを加えたあたりが面白い。彼らは心の声でいつでも通信可能なので、ライダーは自分のドラゴンとまるで恋人同士のような親密な関係になる。

この主人公の飼っている(?)ドラゴンはメスで、色気のある絶妙なデザインと、レイチェル・ワイズの母性溢れる優しい声により、えらく魅力的なキャラクターとして存在している。監督のシュテフェン・ファンマイアーは"天才"とも称されるVFXのプロフェッショナルで、人とドラゴンの合成場面に違和感はまったくない。ナムコのドラゴンスピリットを彷彿とさせる戦闘シーンもカッコイイ。

通常、ファンタジー世界におけるドラゴンといえば、人間をはるかに超える知性と強さを兼ね備えたほぼ無敵の存在だが、まだ若いサフィラは炎もはけず、人もたった3人しか乗せられない。なのにプライドだけは高く、妙に人間味がある。そのうえ自分のライダーであるエラゴンのためには迷わず命を捨てる覚悟も持っている。それはまさにひたむきな愛、つまりこの映画は、史上最高の"ドラゴン萌え"映画といえる。彼女が徐々に成長して強くなっていく様子もかわいい。

しかしながら、二人の敵はとんでもなく強い魔法使い。よって、先ほど書いたサフィラの制限事項は十分なサスペンスを生んでいる。

『エラゴン 遺志を継ぐ者』のまずいところは、肝心なところでご都合主義を感じさせる構成の甘さ。たとえば、ピンチになるとエスパー魔美よろしく、どこかからテレポートしてくる味方の存在には興ざめする。

また、ごく普通に見える少年が選ばれし勇者となるストーリーは、定番ながらなかなか説得力をもたせることが難しいもので、この作品もその点において成功しているとは言いがたい。どうせ(おそらく)3部作にするつもりならこの1作目、わずか104分でここまで話を進めることはない。もっとじっくり二人の成長を描きこんでほしかった。

VFXについての不満は、カット割が細かすぎてせっかくの美しいドラゴンとその身のこなしを堪能できない点。スピードも速すぎて、これではジェット戦闘機の残影をみているのと大差ない。近年のファンタジーものすべてに言えることだが、合成の齟齬を見抜かれるのを恐れて画面いっぱいに大勢のクリーチャーを登場させてごまかしたり、短いショットをつなぎまくるのは感心しない。ファンタジーのファンは、一つ一つのモンスターに大きな思い入れと夢を持っており、そのディテールまでじっくりと味わいたいものなのだ。

結果的には、この第一作はこのくらいの点数といったところ。ただし、作品のポテンシャルは高く、後半部分に書いた問題点をクリヤーすることが出来れば、次以降大化けする可能性はある。



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