『NANA2』55点(100点満点中)
2006年12月9日(土)日劇PLEXほか全国ロードショー 2006年/日本/カラー/配給:東宝

一番トクをしたのは宮崎あおい

矢沢あいの大ベストセラー漫画を実写化した第1作は、2005年9月に公開され大ヒットを記録、ちょっとした社会現象にまでなった。その後、少女漫画が商売になると踏んだ映画界はビッグタイトルを次々と実写化、その流れは今も続いている。

かように近年の日本のエンタテイメント業界に影響を与えた『NANA』。そのパート2である本作は、しかし波乱続きであった。何しろ主演女優が真っ先に降板、それに引っ張られるように主要なキャストが次々と交代、あれほどのヒット作の続編としては余裕のない製作期間ということもあって、ほとんど突貫工事のごとく、なんとか形にしたという印象だ。

東京で出会った同じ名前をもつ二人の少女「ナナ」。大崎ナナ(中島美嘉)はライバルバンド"TRAPNEST=トラネス"のレン(姜暢雄)との恋人関係が復活し、自身のバンド"BLACK STONES=ブラスト"にもメジャーデビューの話がくるなど順風満帆。しかしハチこと小松奈々(市川由衣)は、将来の見えぬバイト暮らしに焦るばかり。

さて、そんなハチは、少しでもナナの輝く世界にとどまっていたくて、周りからやめろと言われていたトラネス一の女たらしタクミ(玉山鉄二)と一夜を共にしてしまう。しかし、多忙なタクミとすれ違いの日々を送るうち、ブラストのノブ(成宮寛貴)からも告白され、心が揺れ動く。

ストーリーだけ見ると、クローズドサークルで兄弟作りをしまくっていた『ビバリーヒルズ青春白書』の世界かよと思ってしまうがさにあらず。ハチは、憧れのタクミに体を許すことで、決して戻ることのできない泥沼に足を踏み入れてしまうことになる。このあたりは、原作ファンにとって、新奈々の市川由衣がどう演じるのか、興味深いところだろう。

端的にいって、『NANA2』は前作に比べ、だいぶ劣る。まず、このエピソード(完結編だそうだが……。)最大のキモは、ナナとハチが、まだ他人との適切な距離をうまくつかめない"子供"だという部分だが、映画はここをきちんと描いていない。そのため、否応なしにそれを理解せざるをえない事件が彼女らにふりかかり、二人が狼狽する姿にリアリティが感じにくい。そして、二人が子供ながらにそれを乗り越え、少しばかり成長して再会(再開でもある)するという流れの感動も、イマイチ伝わらないのだ。

具体的には、ナナの方は監督の演出力不足で、ハチの方は役者の演技力不足で、その重要点を表現できていない。とくに市川由衣の小松奈々はかなり苦しい。私はこのパート2をみて、このシリーズで最も演技力を問われる重要な役柄は小松奈々なのだと、改めて思わされた。

前作では、宮崎あおいの演技力に引っ張られていた中島美嘉が、むしろ今回は市川を引っ張っている。これは、中島が劇的に上手くなったというわけではなく、彼女ですら演技派に見えてしまうほど市川が……、という事だ。

市川由衣は、『ラフ』では長澤まさみに、『NANA2』では(出演すらしていない)宮崎あおいに、完全に注目を奪われてしまった。さすがにこの二人じゃ相手が悪い。比べられたら、引き立て役になってしまうのもやむをえまい。

しかし、あまり同情する気にはなれない。なぜなら、映画版『NANA2』には、期待されていた濡れ場がほんのつゆほども無いからだ。むろん、子供らが見る本作で直接的描写をやれとはいわないが、原作よりもソフトというのでは話になるまい。市川がベッド上で相手とキスをすると、次のショットではもう朝だ。しかもバスローブに乱れは一切無い。まったくやる気の無いアイドル演技そのものだ。

大谷健太郎監督の演出も、前作であれだけしっかりしていた脚本の完成度が低いため、不発に終わっている。たとえばカメラ10台とヘリコプターを駆使して新宿で撮影された、クライマックスのライブシーンだが、大げさに絵作りしたわりには響くものが無い。

この原因は、このライブの持つ意味が脚本上説明不足だから。また、中島美嘉が歌う楽曲のサビが、伸びやかに盛り上がるタイプのものでないという事もあるだろう。たくさん用意した地上カメラも空撮も、細かく編集しているだけで、決して有効に演出しているとは言いがたい。

結果として『NANA2』で一番トクをしたのは、宮崎あおいということになる。次点はレン役を降りた松田龍平といったところか。今回のレンも悪くは無いが、比べてみると前作の松田の方がムードがあった。

結局、彼ら以上のキャスティングができなかった時点で、このパート2の失敗は決まったようなもの。せめて製作期間をもっと長く取り、脚本と編集のクオリティをあげることができていたならば、と思うが、今となってはむなしい叫びだ。せっかくの良シリーズが、中途半端に終了してしまったことを、私は残念に思っている。



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