『ありがとう』65点(100点満点中)

優等生的に作りすぎて、不自然な印象を受ける

阪神・淡路大震災を真っ向から描いた大作映画。震災を生き残ったあとに常識はずれの高齢でプロデビューし、今でも活躍する古市忠夫の原作を実話映画化したものだ。

神戸市で写真館を営む古市忠夫(赤井英和)は、1995年1月17日未明、自宅で大地震に遭遇する。必死の思いで外に出ると、商店街は壊滅、地獄の様相を呈していた。地域の消防団員でもある忠夫は、妻(田中好子)と娘らを公園に避難させると、生き埋めとなった生存者を探しに中心部へと戻っていく。

前半40分間かけて描かれる震災シーンの迫力がハンパじゃない。以前、阪神・淡路大震災の直後に作られた『マグニチュード 明日への架け橋』という映画があったが、同じ震災シーンのために用意されたのが、火事になる家屋セット1軒のみという、低予算にもほどがある内容であった。しかし今回は、まったくそんなことはない。

商店街を丸ごと再現したオープンセットを派手にぶち壊し、CGで高速道路の崩壊を描き、神戸の街が焼き尽くされる大火事も余すところなく再現した。安っぽさゼロの、物凄い出来栄えだ。

翌朝、破壊された街で呆然とする、神戸市民たちの姿が衝撃的。中でも特別出演の豊川悦司による、瓦礫の中の妻を救おうとする一連のシークエンスには涙が出た。もしこの前半を大震災体験者がみたら、とても平常心ではいられないだろう。

ただし、後半のスポ根ドラマはいただけない。震災の地獄を生き抜き、生き方を変えた男が、年齢的に無謀なゴルフのプロテストに挑戦する展開になるわけだが、前半の命がけで隣人たちを救出するキャラクターとの連続性に難がある。

たとえば、彼はゴルフでプロになるために、震災後に働きもせず一心不乱に体作りをするわけだが、説得力を与えるだけの理由付けができていないために、ただの自分勝手なオトコに見えてしまう。この大変なときに家計を奥さんに任せスポーツだなんて、お父さんご乱心か、ってな具合だ。ゴルフと並行して街の再建作業もやっていると劇中語っているが、その苦労を具体的に見せていない点も損をしている。

震災で家も店も失った主人公が、唯一焼け残ったゴルフバッグを見つけるシーンも、せっかくの泣かせどころなのに、もっと演出のしようがあるだろうにと思う。主人公一家が、震災後数年で、えらく立派な新築の一軒屋に住んでいるのもなんだか興ざめする。壮絶な体験を経て立ち上がった男の物語、という感じがまったくしない。

また、この映画の作り手たちは、肩の力が入りすぎ。被害者の多いデリケートな題材というのはわかるが、諸々な事項に過剰に気を使いすぎて、手が縮まっているのではないか。震災にかかわった人々に敬意を払いさえすれば、あとはもっと自由に、映画作家として伸び伸びと描けばいいのだ。そうすれば、あの前半の見事な大震災シーンも、もっと生かすことが出来たはずだ。

ありがとう
原作本です。映画で描ききれなかった部分はこちらで確認をば。


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