『パプリカ』75点(100点満点中)
高いアニメーション技術と演出力、声優による、世界レベルのジャパニメーション
今敏(こんさとし)監督と、アニメ制作会社のマッドハウスは、これまで数々の良質な大人向けアニメーションを発表してきた。ホームレスたちの感動ドラマ『東京ゴッドファーザーズ』(2003)、アイドル界を舞台にした異色のサイコホラー『PERFECT BLUE』(1998)、そして衝撃のラストで観客を突き放す『千年女優』(2001)と、ひとつも外れがない傑作ばかり。そんなわけで私が、日本の劇場用アニメ監督の中でもっとも打率が高いと考えているのがこの監督だ。
そんな彼の最新作は、映像化は困難といわれつづけてきた筒井康隆の同名小説をアニメ化した『パプリカ』。これもまた、期待を裏切らないハイレベルな作品であった。
患者の見ている夢を映像化し、潜入できる画期的な機器"DCミニ"。精神医療研究所の研究員、千葉敦子(声:林原めぐみ)はそれを使い、パプリカという美少女の姿で患者の悩みの原因を突き止める、サイコセラピストとして活躍していた。ところがあるとき"DCミニ"が盗まれ、研究員らの意識がのっとられる事件が起こる。敦子はDCミニの発明者の時田(声:古谷徹)らと共に、犯人探しに乗り出す。
お城が動くわけでもないし、3D-CGの車がしゃべるわけでもない。そんなわかりやすい派手な見せ場などなくとも、面白いアニメーション映画は作れるということを、毎回証明している今敏監督。
しかし、決して地味な人間ドラマばかり作っているわけではない。むろん、ほかのアニメ作品とはワンランク違う、優れた人間描写が持ち味ではあるが、極端な話、それだけなら実写映画と変わらないわけで、アニメでわざわざやる意味がない。彼の映画が素晴らしいのは、必ずいくつか、アニメーションでなければ出来ない演出や映像表現を織り込み、観る者に新鮮な感動を与えてくれる点にある。
『パプリカ』の場合、犯人が人々の脳に送り込む狂った「夢」の表現がそれにあたる。人々を発狂させるほどの、あるいは発狂した人間自身が見ているかのようなこのイカレタ夢は、まさに今敏監督のイマジネーションと、マッドハウスによる精緻なアニメーションのコンビネーションがあればこそ、これほどのインパクトを持って表現できた。自由の女神が家電製品と共に練り歩く、狂ったこの夢世界は、神経をかき乱すような音楽と共に、観客を不安な気持ちにさせる。
この夢の中を縦横無尽にパプリカが飛び回るアクションシーンは、動きの滑らかさや自由なカメラワークによって、目を見張る出来栄え。強い視的快感を与えてくれる。
そんなわけで今回は、どちらかというとストーリーの面白さより、映像そのものを楽しみにいくとよい。アニメ慣れした大人向け(ハダカも出てくるし)で、おそらく海外でも相当受けるだろう。
映像表現に力を入れすぎたか、脚本が洗練されておらず、クライマックスの感動シーンも伏線不足でやや盛り上がりに欠けるが、それを補うだけの魅力がある。見る際は、大人だけで劇場にどうぞ。