『めぐみ-引き裂かれた家族の30年』70点(100点満点中)

深く感動を覚える人間ドラマに隠された、監督の執念

交戦中というわけでもない平和な隣国の一般市民を国家命令により拉致し、その罪を認めながらもいまだ被害者を返そうとしない。北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国による、決して許されない蛮行を、被害者に焦点を当てて描いたドキュメンタリー。

日本人ではなく、あくまで海外の「拉致問題を知らない人々」へ広くアピールするための作品なので、もともと私たちはターゲットではないということを理解した上で鑑賞するのがポイントだ。そうすることで普段見ているニュース報道とは違った、さまざまな発見をすることができる。

たとえば、タイトルからわかるとおり、本作は横田めぐみさんの家族を追いかける、人間重視の作風。マイケル・ムーアの扇情的な作品群のように、北朝鮮に対する批判などの政治的主張はほとんど見受けられず、あくまで悲劇に直面した夫妻の話として、ある程度距離をおいて彼らを見つめるのみだ。つまり、拉致問題を社会問題の側面からとらえるのではなく、人間ドラマとして描いている。

だから、鋭く事件の深層に切り込むとか、問題を徹底的に暴くとか、そういうものを期待すると肩透かしを食う。日本の報道や書籍をよく見ている人からすれば、「もっと伝えてほしい事柄がたくさんあるのに」と、歯がゆい思いをするだろう。

しかし思い出してほしい。これはあくまで「日本以外の観客」に向けた映画。今まで拉致問題など聞いたこともなかった人々に、問題の存在を伝えるための作品だ。だからあえて、そうした人々の立場になってこれを見れば、「物足りなかった」はずの本作が、大きくその姿を変えて見えてくるに違いない。

そして、それが見えればこの監督たち(クリス・シェリダン&パティ・キム夫妻)の真意も読めるというもの。すなわち、一見中立を保ち、冷静極まりない視点で横田滋、早紀江夫妻の暮らしを追っているように見えるこの監督が、誰より強烈な思いでこの問題を解決してやろうと考えているという事に、だ。

批判や非難することは簡単で、いくらでも面白おかしく作ることができる。しかし彼らはあえてそうせず、政治色を薄めることでより多くの観客の共感を得ようと努めた。新聞記者とキャスターの経歴を持つ二人は、そうして作り上げた世論の方がはるかに強く、そして長く、物事を動かす力になると理解しているに違いない。手詰まりな日本政府の外交にイラついている日本人にしてみれば、なんとも心強い策士である。上映時間をわずか90分に抑えた点も、なるべく大勢に見せるための有効な戦術だ。

考えてみれば北朝鮮による拉致問題は、あえて何も主張せずとも事実を見せるだけでよいのだ。めぐみさんが独唱する歌声や、金正日による嘘だらけの死亡発表を受け、正視できぬほど混乱、涙を流しながら記者会見を行う横田夫妻の姿を見せればそれで十分。一切の反論の余地なき悪が誰か、全員に伝わる。

私が不満なのは、構成が少々わかりにくく、初めてこの問題を知る外国人にとって、この問題がいまだ継続中で、日本のみならず世界中に存在する数百人の拉致被害者を一刻も早く救い出さねばならないという、最重要ポイントが伝わりにくいのではないかと思われる点。

この作品が世界中に広まり、拉致問題が解決に向けて動き出すことになればと心より願う。いまだ北に残され過酷な暮らしを強いられている、めぐみさんをはじめとする被害者たちが帰ってきた時、この作品の評価は100点となる。



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