『家門の危機』60点(100点満点中)

韓国中を席巻したドタバタラブコメ

本国において大ウケした映画が、日本ではまったく受けない。その映画を買ってきた映画会社にとってはせつない事だが、そんな事がこの世界ではままある。『家門の危機』も、韓国で記録的なヒットとなったコメディシリーズの第2弾だが、本国でのブームに比べたら、日本ではまったくといっていいほど話題になっていない。

家門の安泰を願う暴力団組織の女ボスは、いつまでも独身でいる長男(シン・ヒョンジュン)を心配している。しかし、じつは長男は女嫌いというわけではなく、かつての恋人(キム・ウォニ)を事故で失ったショックで、恋に臆病になっているのだ。そんなある日、駐車場で彼女にそっくりな女(キム・ウォニ…2役)を偶然助け、それを契機に二人は恋に落ちる。ところが彼女の職業はソウル地裁の検事。しかも暴力団対策のエースだった。

『大変な結婚』(2002年、韓国でのタイトルは『家門の光栄』)に続く、"身分違いの恋"をテーマにしたラブコメの第2弾だが、両者の邦題に関連がない事で想像できるとおり、両者はまったく独立した作品とみて問題はない。せめて前作が日本で大ヒットしていれば、本作の邦題もまた違ったのであろうが……。

映画の内容はまさにドタバタギャグ映画で、下ネタも満載。○○○は折れるわ、豊胸クリームであんなことになるわと、初デートで見るにはちょいと気恥ずかしいような笑いが満載だ。こうした馬鹿馬鹿しいネタを、TVドラマ『輪舞曲』や『天国の階段』など、クールなイメージで知られるシン・ヒョンジュンが演じるギャップが韓国では大いに受けた。

確かに本作の彼は、一見ヒゲ面でこわ持てに見えるが、ちょっと笑ったときなど瞳がつぶらでチャーミングな感じがする。まったく嫌味のないキャラクターで、これなら女性のみならず、幅広い支持を得られたとしても不思議はない。

ヒロインのキム・ウォニは、韓国の人気タレントだが、映画は日本初登場。チリチリのカツラをかぶって出てくる主人公の回想場面など、あまりのくだらなさと扱いのひどさに涙が出るが、よく見ると大人っぽい美人タイプ。

彼らはそれぞれ魅力的で、コメディを上手にこなしているが、それでもこの映画は、日本で広く受け入れられるのは難しかろう。それはこの映画が、主に韓国のお客さんのみをターゲットに作られた作品だからだ。この点、輸出を念頭において作られる近年の韓流TVドラマとは大きく異なる。

よって、笑いも韓国人でないとわかりにくいと思しき内輪ネタ的なものが多い。それでも私自身、爆笑できた場面もちらほらあったのだが、作品を楽しみ尽くしたという気分にまではなれなかった。

『家門の危機』は、主演の二人をよく知るコアな韓流マニアならいいが、一般の日本のお客さんにはラブコメとして、それほど積極的にすすめられる作品ではない。しかし、韓国でヨン様の『四月の雪』や『デュエリスト』を蹴散らしたほど大ヒットした物凄いコメディがどんなものか気になる方は、迷わず出かけてみてほしい。それなりに楽しめるレベルには仕上がっている。



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