『unknown アンノウン』60点(100点満点中)

抜群に面白い設定

人が映画館に行こうと決意する理由はさまざまだ。スターが出ているとか、有名な監督の作品とか、この夏一番の話題作とか、それぞれであるが、そのどれでもない『unknown アンノウン』の場合は間違いなく、その奇抜なストーリー設定に惹かれて出向く方が大多数のはずだ。

主人公の男(ジェームズ・カヴィーゼル)が目を覚ますと、そこは廃工場だった。まわりには彼を含め、同じように眠っていた5人の男たちがいた。二階の手すりに手錠でつながれた瀕死の男、椅子に拘束された中年男、そして激しく争った形跡や、大量の血痕……。工場はすべての窓、出入口にカギがかけられており、彼らは完全に閉じ込められていた。どう見ても、尋常な状況ではなかったが、最大の問題は、全員が記憶喪失であるという点であった。

このなぞめいた、あまりに魅力的な密室状況。そこに一本の電話がかかってくるのだが、主人公が適当に話を合わせた結果、どうやらこの5人のうち何人かは誘拐犯の一味で、残りは誘拐された被害者であることがわかる。誘拐犯のボスらは日暮れ頃ここにやってくる。それまでにこの状況を打開しなくては、彼らのうち何名かには死、あるのみだ。

はたして目の前の誰が仲間で、誰が敵なのか。自分は犯人側か、それとも被害者側か。逃げるべきか、とどまるべきか。ひとつ選択を誤れば、それは死を意味する。誰と組み、誰を裏切るか。あまりにスリリングな生き残りゲームが開始される。

密室状況でのサスペンスドラマには、傑作が多い。舞台が狭いほど話を作るのは難しいが、その制限された状況はよりサスペンスフルなドラマを生み出す。『フォーン・ブース』しかり、『裏窓』しかり。

この『unknown アンノウン』も、なかなか着眼点がよく、これ以上ないほどの導入部であるが、残念ながらそうした傑作群と比べると完成度はやや低い。完璧なシチュエーションではあったが、うまく物語に生かすことができなかった。

思うに、5人の記憶が徐々に中途半端に戻ってきて──という展開にしたことがいけない。いっそ記憶が戻るという方法以外で登場人物に真実をつきとめさせたほうが、より知的で面白い展開になったのではないか。記憶があいまいな状況下では、敵味方が次々入れ替わる展開もあたりまえすぎて、意外性が感じられない。記憶が鮮明になるほど真実に近づいていくのはあたりまえの話なので、緊張感に欠けてしまう。

また、その記憶の復活の過程があまりにテンポが速く、見ているコチラが頭の中を整理する前に次々と先に進んでいってしまう。こちらが驚く準備ができていないうちに、話が先に進んでしまう。こうした観客の感覚とのズレが、徐々に大きくなっていくのが惜しいところだ。

また、もっと記憶の復活をうまくミスディレクションに利用してビックリさせるとか、色々なアイデアを煮詰めてほしいという気持ちもある。

それでも、まったく退屈せずに見られる85分間の娯楽としては、平均以上。期待が大きかった分、不満も色々書いたが、決して悪い作品ではない。サスペンス好きの方には、ぜひ見ていただきたい面白い作品だ。



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