『ユア・マイ・サンシャイン』60点(100点満点中)
最近の韓国映画としては珍しい、まっとうな恋愛ドラマ
今週は実話を元にした映画ばかりであるが、本作もそのひとつ。韓国で話題になった「HIV感染を知らなかった売春婦と、それでも彼女を愛しつづけた田舎の青年」の物語だ。
農村で牧畜業を営む素朴な中年男(ファン・ジョンミン)は、嫁不足の土地柄、結婚は半ばあきらめていたが、あるときスクーターで颯爽と走るさわやかな女の子(チョン・ドヨン)に一目ぼれ。近所のコーヒーショップに勤める彼女に、ストーカーも真っ青な猛烈なアタックを開始する。暗い過去を持ち、自分を汚れきった女と思っている彼女は、まっとうな人生を歩んできた彼との結婚に躊躇するが、やがてついにその愛を受け入れる。しかし、二人の前に彼女の元旦那が現れると、幸せな生活は音を立てて崩れ始める。
韓流恋愛映画は、不自然なまでにドラマティックな展開や、過剰なお涙頂戴がデフォルトとしてあるために、ここ日本ではごく一部のファン以外にはまったく相手にされていないが、この『ユア・マイ・サンシャイン』はそうした作品とは一味違う。
たしかに、ヒロインがHIVという不治の病に感染しているという設定を聞くといやな予感はするが、決して交通事故に遭いまくったり、記憶が消えまくったりといった、韓流の勝ちパターンをそのまま進むことはない。むしろ不治の病設定を泣きに利用するという、安直な手法に陥っていない分、好感が持てる。
シリアス100%のこの恋愛ドラマを演じるのが、アイドル俳優ではなく本格的な演技派の二人というのも大きい。愛する彼女と離れ離れになり、げっそりとやつれる主人公を表現するため、ファン・ジョンミンは目で見てわかるほどの大幅な増減量を行った。相手役のチョン・ドヨンは、彼女を意識して脚本が書かれているためそこまでの役作りは必要なかったが、もとより若手なのにヌードも辞さぬ本格派女優(『スキャンダル』でヨン様と全裸で絡んだ熱演が記憶に新しい)。演技にかける覚悟が感じられ、見ごたえがある。こうした役者たちのマジメな態度は、大いに見習いたい。
ちなみにひとつだけ解説を加えると、韓国の一部ではコーヒーショップの出前でやってくる女の子が同時に娼婦、という風俗がある。この映画のヒロインもコーヒーショップ店員だが、つまりはそういうことだ。儒教の影響の強い韓国で、そうした女性と結婚した"普通の"男の家族たちが、苦い顔を見せる場面があるのも無理からぬことというわけだ。
クライマックスは、主人公が急に狂ったように泣き叫んだり、いとも簡単にあるモノを壊したりと、あやうくギャグ一歩手前になってしまうが、ギリギリのところでなんとか感動的な場面として成立した。
『ユア・マイ・サンシャイン』は、マジメな大人が見られる数少ない恋愛映画。韓国映画特有のトンデモ感を味わいたい向きには合わないが、感動的な映画を普通に楽しみたいという人には、むしろ積極的にすすめられる一品だ。
ちなみに本作は、相当程度、事実に忠実に作られているそうだが、現実の二人がその後どうなったかについては、あえて語るまい……。