『待合室 -Notebook of Life-』45点(100点満点中)
各エピソードは良いが、構成はいまいち
この映画は、実際におきた心温まるエピソードを映画化したものだ。ターゲットとしては中高年向きで、映画に刺激を求めない、穏やかな気持ちで椅子に座っていたい人々のための作品といえよう。
雪深い東北の山間部の駅、石油ストーブが暖かいオレンジの炎を灯す小さな待合室に、一冊のノートがおかれている。いつしか"命のノート"と名づけられたそれには、旅人たちの悩みや想いがぎっしりと書かれていた。そして、その一つ一つに丁寧な返事を書き続けるのが、駅前で酒屋を営んでいるおばちゃんこと夏井和代(富司純子)だった。
彼女は40数年前にこの地に嫁いできたのだが、その時代の和代を演じるのが寺島しのぶ。いうまでもなく、彼女は富司純子の実娘。本作は、二人にとって映画初の母娘共演ということになる。親子だけに顔は確かに似ているが、あまりにこの二人は女優としてキャラが違い、どう見ても同じ人物を演じているように見えないのが面白い。しかしいずれにせよ、寺島しのぶが近年、目覚しい成長を遂げたおかげで、本作ではたいへん豪華な二大女優の共演を楽しむことが出来る。
物語のほうは、ヒロインの過去と現在を行き来しながら、ノートをめぐるエピソードをちりばめていくような展開になる。ノートに絶望の思いと死を予期させる内容を記して去る男の話や、たまったノートを入れる木箱を作ってくれる親切なおじさんの話、ヒロインの態度に反発する少女の話などが挿入される。
どれもこれもハートウォーミングなエピソードではあるが、少々退屈で、おまけに各展開にあまり必然性を感じないのは、それらを束ねる全体の構成力が弱いから。
また、本物だからとはいえ、ヒロインの駅前の酒屋が妙にモダンだったり、IGRいわて銀河鉄道の車両デザインが近代的すぎるなど、いま風の要素がチラホラ見られる点には、ノスタルジックな味わいがなく、さびしさを感じる。このネット時代にアナログなノートをテーマにして、そこに説得力をもたせたいのであれば、できればそうした要素は表に見えないようにしてほしいところだった。