『トンマッコルへようこそ』70点(100点満点中)
人によって楽しみ方が大きく異なる映画
以前私は、「外国映画とは、そのときのその国民の空気感を知ることができる楽しみがある」というような事をこのウェブサイトで書いた記憶があるが、韓国で6人に1人が見たというほどの大ヒット作『トンマッコルへようこそ』は、まさにそうした楽しみ方ができる最たるものだ。この奇妙な戦争映画は、他に例を見ない独特の個性をもっており、大いに見る価値のある一本といえる。
1950年代、朝鮮半島の山深くの村トンマッコル。素朴で平和な人たちが住み、自給自足のつつましい暮らしを送るこの村に、米国人パイロットの操る戦闘機が不時着する。時を経ずして今度は道に迷った韓国軍兵士や、北朝鮮軍の兵士が村にやってくる。おりしも朝鮮戦争の真っ只中で、敵味方、そして同盟軍として戦う三者が集い、村は一触即発の状態となる。
『トンマッコルへようこそ』は、現実に起こった朝鮮戦争を題材にしながらも、その内容は限りなくファンタジーといってよい、不思議な映画だ。この架空の村トンマッコルでは、ありえないほど平和でのんきな暮らしがはぐくまれており、ここに集った戦争中の兵士たちは、彼らに影響を受けて、やがてお互いを理解し始めるという展開。
その過程では、さまざまな反米描写や北朝鮮マンセー描写が繰り返され、当時も今も味方のはずのアメリカに対して、あるいは敵ではあるが同じ民族の北朝鮮に対し、作り手の韓国人がいかに複雑な感情を抱いているかが手にとるようにわかる。
とくに、米国や連合軍に対する描写はひどいもので、橋を誤爆して民間人に多数の被害を出した史実を絶妙にからめるという嫌らしいやりかたで、執拗に批判を繰り返す。
そう、この映画のもっとも薄気味悪いところは、実際に多数の被害者が出ている現実の戦争を舞台にしながら、そこにファンタジー要素を取り込み、一定の政治的主張に利用している点にある。
本来、内側に普遍的な主張を込めるために採用されるファンタジーというジャンルを、政治的な戦争映画に採用するという、なかなか珍しいことをこの映画はやっているわけだ。しかし、そのために外部にいる私たち日本人の目からこれを見ると、かなり強いプロパガンダ臭を感じざるを得ない。あるいは、日本人は少々お人好し過ぎるところがあるから、案外本作からそういう要素を感じられない人も多いかもしれない。
映画としての出来はすこぶる良い。手榴弾によって備蓄穀物がおじゃんになる場面や、南北両兵士が和解するきっかけとなるイノシシ退治の場面などは、CGを効果的に使い、印象深い場面として見事に仕上げてある。知的障害のあるヒロインがかもしだす不思議ムードも心地よく、映画の雰囲気と好感度の向上に一役買っている。
ドラマとしての演出も上々で、南北の兵士が仲良くなる過程には説得力があり、なかなか感動的だ。
『トンマッコルへようこそ』は、政治・軍事に詳しい人にはそのプロパガンダっぽさを味わうことで、そうでない人には普通に感動ドラマとして、いずれも楽しめる作品だ。こういう映画がその年のランキング一位になってしまう国なのだと理解すれば、先日の北朝鮮の核実験時にも、世界でほぼ唯一、韓国だけが北に同情的な政策を続けた理由もよくわかる。