『トリスタンとイゾルデ』75点(100点満点中)
見ごたえたっぷり、さすがの王道
恋愛というものは、たいてい障害があるほど燃える。背徳は最高の媚薬といわれる通り、他人から反対されればされるほど、その恋の価値も上がるというもの。ときには障害がなくなったとたん、恋心もさめてしまったなんていう、意味不明な経過をたどることも少なくないが、それはまさに本質を見失うほど"障害=媚薬"が魅力的だった、ともいえるわけだ。
さて、中でも最高なのが"決して許されぬ立場同士の恋"。これはもう、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』をはじめとする、古今東西のあらゆる恋愛物語の基本形。しかし、それらの悲劇物語に"オリジナル"がある事をご存知だろうか。
それこそが『トリスタンとイゾルデ』。1500年以上も前のケルトの伝説をもとにまとめられたこの物語が、いよいよ映画化された。
イングランドの若き騎士トリスタン(ジェームズ・フランコ)は、ある戦闘で瀕死の重傷を追ったところを、敵国アイルランドの王女イゾルデ(ソフィア・マイルズ)に救われる。望まぬ政略結婚から逃げたかったイゾルデと、その危険を顧みぬ献身ぶりに感動したトリスタンは、やがて自然に恋に落ちる。
さて、どこから見ても美男美女、理想的なカップルのこの二人には、残酷な運命が待っていた。やがてイゾルデは、トリスタンが父と慕うマーク王のもとに嫁いでくるのだ。ろくでもない相手ならいざ知らず、政略結婚の相手はトリスタンにとって命の恩人。これ以上無い立派な紳士である。彼が、愛するイゾルデとマーク王の初夜を、身を引き裂かれる思いですごすあたりの描写は、男性なら誰もが共感できる痛さに満ちている。
すばらしい出来栄えの美術や衣装は様式美的な美しさに満ちており、音楽もせつないメロディが心に残る。物語も、その後あらゆる作家たちになぞられた王道として、堂々と真正面から展開する。イゾルデが恋に落ちる過程にも説得力があり、自然と感情移入ができる。後味も決して悪くない。見ごたえ十分の、悲劇物語といえるだろう。
『トリスタンとイゾルデ』には、悲劇的な歴史物語として、マイナス点がほとんど見られない。役者たちも美しく、しっかりとした映画をみた気分になれる。小難しい展開はなく、歴史的な知識もまったく不要だ。誰にでもわかりやすく、しかし決して安っぽくはない。こういう話が好きな方、この時代のヨーロッパの雰囲気が好きな方に、ぜひオススメしたい一本だ。