『スネーク・フライト』70点(100点満点中)

B級パニックアクションのキモを完璧に理解したつくり

飛行機という乗り物は、人間が本能的に恐れる乗り物のひとつだ。あの鉄の塊が、いかなる技術でもって空を飛ぶのか、理解できない人間はもちろん、わかっていてもなんとなく怖い。なにしろ墜落事故はおきたが最後、老いも若きも一巻のおわりなのだから。

そして蛇。これも人間が本能的に嫌う動物の代表格といえる。てらてらと光る表面。くねくねと、手も足もないくせに異様にすばやい動き。おまけに一撃必殺の毒をもち、自分より巨大な獲物を丸呑みする常識はずれな習性……。

では、この二つが同時に襲ってきたらどうなるか。墜落の危機に瀕した空の密室、旅客機内に、数え切れないほど多数の毒蛇が放たれる。まさに、パニック必至。そんな映画が「スネーク・フライト」だ。

腕利きのFBI捜査官(サミュエル・L・ジャクソン)は、重要証人(ネイサン・フィリップス)を民間旅客機で護送することになった。ところが、証人の命を旅客機もろとも消そうとする犯罪組織側は、荷物室のケースに時限開放装置を設置。離陸直後に中から無数の毒蛇が飛び出し、客室へとなだれ込んでしまう。

映画は、サミュエル・L・ジャクソンと若き証人を中心に、偶然居合わせてしまったあわれな乗客たちのパニックぶりを、多少のコメディ色を入れつつも、基本的にマジメなパニック映画として描く。安っぽいバカ映画ではなく、本格的に作られたヘビ映画である。

とはいえ、このネタでマジメ映画が作れるはずがない事は作り手側もしっかり承知しており、決して背伸びはせず、あくまでB級パニック映画を極めるという一点を目指して作られている。

そうして見ると、本作はそのジャンルの魅力をよく研究してあることがわかる。劇中で誰を殺し、誰を生き残らせれば観客が喜ぶか、あるいはどういう伏線を張れば、最後に感動させることができるのか(この手のアホなパニック映画で、意外な感動があると観客はより喜ぶものなのだ)。そういう点は、決してはずさない。この映画のスタッフは、とても映画作りがうまい。

監督はデヴィッド・R・エリス。「マトリックス・リローデッド」のあの物凄い高速道路チェイスを作り上げた男として有名だが、監督作も「デッドコースター」(2003)、「セルラー」(2004)と、傑作が続いている。そうしてこの日本公開第3作。これはもう、本物と見てよいだろう。インパクトのあるエンタテイメントを作りだす能力が、恐ろしく高い監督だ。

観客が、「え、どうしてそうなるの?」と疑問をもてば、間髪いれずさらりと答えを提示、しかし決して説明過剰にはならない。たとえば、機内がヘビだらけになったとき、誰もが「近くの軍事基地に緊急着陸を要請したら?」と思うが、そこで彼らはその前にチラと提示されていた事実「本機はハワイからLAへ向かっている」を思い出す。洋上では、着陸する場所などどこにもないというわけだ。

旅客機内にヘビが大量発生するというワンアイデアものながら、ヘビから逃げるのみならず、機体の故障、地上での犯人捜査、血清準備など、見せ場を立体的に作り出した点もよい。ちゃんと飽きずに107分間楽しませてくれる。

サミュエル・L・ジャクソンのような大物俳優が、彼自身ノリノリで参加しているのもよく伝わってくる。本国でR指定を食らったほどの毒のあるジョークや、女の子のハダカばっちりの展開も楽しい。こうした"毒"を、日本語版字幕ではいまいち表現しきれていないのが惜しいところだ。

『スネーク・フライト』を見ると、本気でやってはずした「ダメ映画」と、最初からパニック映画マニアを狙い撃ちした「B級映画」の違いがよくわかる。これはもちろん後者のほうで、その出来栄えはかなりのものだ。観客としても、リラックスして鑑賞したいところ。ただし、ヘビ嫌いの方は要注意。

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