『16ブロック』75点(100点満点中)
ラストショットがうますぎる
平凡な映画でも、はっとさせるワンシーンがあると、すべてをチャラにしてあげたくなる場合があるが、もっとも重要とされるラストシーンがそうした「至福の瞬間」であった場合、評価に与える影響はより大きい。『16ブロック』はまさしくそんな作品で、これはもう、最後のワンカットを味わうためにすべてが作られているかのような、そんな映画である。
ニューヨーク市警のベテラン警官(ブルース・ウィリス)は、捜査中の事故で足を悪くし、今では酒びたりの堕落した日々を送っているが、ある日裁判所まで、証人(モス・デフ)の護送を頼まれる。目的地まではわずか16ブロック。15分もあれば済む用事のはずだったが、彼らは途中で猛烈な攻撃を受け、命がけの逃亡劇を繰り広げることになるのだった。
映画のテンプレートとしては、おしゃべり黒人のお調子者のチンピラと、気難しい白人刑事のバディムービーという、定番中の定番。命がけで追手から逃げる合間にも、テンポのいい会話劇やジョークが交わされ、こちらを楽しませる。
むろん、そうした会話は二人の性格や、内面の魅力を表現するという意味において、演出上、重要な役割を果たしている。たとえば、このチンケな犯罪者である証人の黒人男が、どん底に落ちながらもまだ人生をあきらめておらず、まっとうな道へと戻るべく、ポジティブに努力していることがわかる。一方刑事の側は、なんらかの過去の傷から立ち直れておらず、逆に未来に絶望している。チンピラの暖かい人間性によって、刑事の側が影響を受けていく構図となっている。ブルース・ウィリスが、落ちぶれ感たっぷりに、傷ついた中年男を好演している。
追跡アクションについては、いかにもアメリカ製らしく荒削り。都心の人ごみにまぎれようが地下に逃げようが、あまりに都合よく悪者どもに見つかり、修羅場となる。この二人には、高性能なGPS発信機でもついているんじゃないかと思う。こうした娯楽要素には、さほど特筆すべき点はなく、ハリウッド映画としてごく普通。
しかし、中盤にはうまいミスリードが仕掛けられ、終盤の意外な真相を盛り上げる。もちろん、会話劇の方は手馴れたもので、すぐに二人に深く感情移入できるようになっている。『リーサル・ウェポン』のリチャード・ドナー監督らしく、弱い立場の人間たちや、その絆についての暖かい視点が心地よい。
しかし、何より優れているのはラストショット。そこまではせいぜい60点程度の印象だったが、これは本当によかった。最後の2秒で泣ける映画というのも、なかなか貴重ではなかろうか。見た瞬間、多少のことは許せてしまうほどいいものがあった。
『16ブロック』は、隅々まで完璧な映画では決してないが、最後がよく出来ているために、満足度という点ではなかなかだ。この厳しい時代、明るい希望を感じさせる、愚直なまでのストレートな応援歌。私はこういう映画を嫌いではない。