『夜のピクニック』40点(100点満点中)
物語に起伏がなさ過ぎる
『ラフ』『涙そうそう』と主演作品が続々公開されている長澤まさみよりわずかに下の世代で、私が注目している女優が多部未華子。このサイトでも高い評価をつけた『HINOKIO ヒノキオ』で、ユニークな役柄を演じた89年生まれの期待の若手だ。映画を中心に活躍する彼女の主演最新作がこの『夜のピクニック』。ノスタルジックなミステリを書く事でも知られる恩田陸の、同名ベストセラーの映画化だ。
全校生徒が徹夜で80kmもの道のりを歩きぬく、この高校最大のイベント「歩行祭」。3年生となり、今年が最後となった貴子(多部未華子)は、ある一つの思いを胸にこの日を迎えた。それは、今まで一度も話したことのないクラスメートの西脇融(石田卓也)に話し掛けるということ。実は彼は、彼女のある重大な秘密を、たったひとりだけ知る相手なのだ。ところが、そんなことは露知らぬ二人の友人たちは、彼らをカップルにしようと気楽に盛り上がっていた。
オープニング、歩行祭出発直前の校庭を一気になめる長まわしははっとさせるが、その後は失速。この映画は、2時間のほとんどが歩くシーンだが、その間引っ張りつづけるには、ヒロインの抱える秘密のネタが弱すぎる。おまけにその最大のネタさえも、パンフレットのイントロダクションでバラされていた。宣伝の方には、少し気をつけていただきたい。
正直なところ、多部未華子を見ているだけでワクワクする私でさえ、あまりに退屈で試写室を出たくなった。彼女と加藤ローサという、飛び切りの美少女二人が同一画面に入っているというお得感だけが、唯一の心のよりどころであった。
だいたい、この監督(『13階段』の長澤雅彦)に、ミュージカル調のポップなシーンや、ギャグ会話の演出は向いていない。根本的に間が悪く、ノリもよくない。
また、登場する高校生たちがあまりに健全で、性を感じさせないため、リアリティが薄い。私など、しばらくこれを中学校の話かと思っていたくらいだ。恩田陸の小説は、もともとリアリティが薄め、その代わりファンタジー色が濃い目というものであるから、ある意味仕方がない部分ではあるが。それにしてもこれを見ると、やはり彼女の小説世界は、本の中だけで完結してしまっているなと思う。絵にしてしまうとどうも浅薄で、ハズいものがある。
『夜のピクニック』は、多部未華子をはじめとする若い女優さんが頑張ってはいるが、演出力が足りず、十分なノスタルジィを見せることができなかった。いい線いっているのだが、あと一歩といったところだ。