『天軍』60点(100点満点中)

外国映画を見る醍醐味を味わえる一本

近代的装備を身につけた現代の陸軍が、16世紀にタイムスリップしたらどうなるか。そんな、いまだかつてない斬新なアイデアを、ミン・ジョンギ監督は(千葉真一の映画ではなく)朝鮮の古い歴史書から思いついたという。彼はやがてそれを、歴史SF軍事アクションとして映画化した。それが韓国の『天軍』だ。

この映画、冒頭から凄い。北朝鮮と韓国が歴史的和解をし、金正日と金大中が仲良くしている映像から始まるのだが、その後なんと彼らは、南北連合軍として極秘地下施設で核ミサイルの共同開発に成功する。やがてその、米国の早期警戒システムでさえ探知できない(!)世界最高のハイテクミサイルシステムの完成を知った悪の大国、日米中は、強大な軍事力に物を言わせ、その引渡しを要求してくるのだ。相変わらず韓国映画界は、妄想のスケールがでかい。もちろん、反日、反米発言も目白押しだ。

その後、色々あって(これもまた面白いので、ぜひ皆さんご自身の目でお確かめになってほしい)この南北連合軍は、新型核弾頭と共に1572年の朝鮮時代にタイムスリップ。そこで彼らは、民族の英雄、李舜臣(り・しゅんしん=イ・スンシン と読む)の若いころに出会う。

さて、よりにもよって李舜臣ときた。この人物は、豊臣秀吉の時代、朝鮮半島に軍事介入した日本海軍を、連戦連勝で打ち破った海戦の天才と(韓国では)称えられる。韓国史上最も人気があるといっても過言ではない、歴史上の英雄である。

ただし、この時代の李舜臣はまだ、ニートも同然のひよっこ。これにタイムスリップ軍が喝を入れ、軍事のイロハを叩き込んだりするというストーリーが、この映画のもうひとつの核となる。やがて李舜臣はその才能を開花させ、民衆を救う戦いに挑む。

さて、この「民衆を救う戦い」というのがまた凄い。まず、未来からきた南北連合軍のすごい武器(……といっても装備は小銃と手榴弾のみ。予算の都合か、日本の戦国なんとかいう映画みたいに、ヘリや戦車は出てこない)を目の当たりにした貧しい村の人たちは、集まってきて彼らに懇願する。

いたいけな彼ら村人たちによると、女真族(字幕では蛮族と表記)が暴行略奪を各地で繰り返しており、この村もいつ襲われるかわからぬ状態だという。

かくして李舜臣率いる7人(?)の凄腕の戦士たちは、村人を軍事訓練し、戦術をたて、悪辣な略奪者たちと戦い、一人一人死んでいくのである。いまだかつて見たこともない、映画史上に残る独創的なストーリーには、驚かされる限り。

この『天軍』、前科多数の韓国映画ということもあり、早くも各所で強烈な批判にさらされている。私としては、千葉真一や黒澤明の映画を一度も見たことのない人なら純粋に楽しめると、まずはアドバイスしておきたい。

それにしても最近の韓国映画は面白い。ブームの初期は、ワンパターンなメロドラマばかりで辟易したが、ここにきてようやく本領発揮というか、現代韓国人の本音がうかがえる作品が増えてきた。

映画、特に娯楽映画とは、それを作った国の人々の求めるものが凝縮された、いわば感情(願望)の鏡のようなもの。外国の映画を見るということは、その国の文化、そして人々の感情を知るという楽しみもある。そう考えるとこの『天軍』や、本国で好評の『韓半島』などをはじめとする最近の韓国映画は、たいへん興味深い。ハリウッド映画のようなエンタテイメントを期待するというより、近くて遠い異文化を体験するつもりで、見に行くと良いだろう。

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バカ映画だと思いますが、一度は見る価値があります。それにしても『天軍』の宣伝担当の方、「韓国版戦国自衛隊」なんて直接的なコピーをつけるなんて、素敵過ぎます。
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これはマジメに大傑作。邦画エンタテイメントの最高峰。


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