『フラガール』60点(100点満点中)
お涙頂戴がくどすぎ
福島県いわき市に、かつて常磐ハワイアンセンターと呼ばれた温泉リゾート施設があった。現在でも、スパリゾート・ハワイアンズとしてリニューアルし、全国のこの種の施設が軒並み苦戦する中、活況を呈している。
なぜいわき市なのにハワイなんだと、その名を聞くたびに突っ込みたくなるが、実はこの施設のはじまりには、時代から消え行く炭鉱業のみで生きてきた町の人々が、新たな人生のために大きな賭けをした、感動的なドラマがあった。その実話の映画化が『フラガール』。これを見た後じゃ、ハワイを名乗るとは安直だなあ、なんて感想は二度といえない。
時代は、エネルギー源が石炭から石油に代わりつつある昭和40年。いわき市の常磐炭田も、閉山が相次ぐ全国の他の炭鉱同様、大不況を呈していた。町の人々も、長年町の経済を支えてきた炭鉱業にしがみつく保守的なグループと、湯量豊富ないわき湯本温泉を利用したリゾート施設の建設に賭けるグループに分かれていた。後者の人々は、名門の松竹歌劇団にいたダンサー(松雪泰子)を東京から呼び寄せ、町の少女たちにフラを教え、施設の目玉にしようと画策する。
この時代、誰の目にも真新しかったフラ(フラダンスという呼称は正しくない)。ところがその半裸の衣装が、保守的な人々の目にはストリップと混同されてしまうなど、ダンサー候補集めは苦難の連続だ。しかし、みなから白い目で見られながらも、あるいは親に隠れてでも彼女たちは舞踏教室に通う。炭鉱の仕事につく彼女たちは、その将来性の無さを知っている。だが、多くの男たちと違い、不安を振り切って、勇気を出してまったく新しい産業に飛び込んでいく。その前向きなエネルギー、努力する姿がさわやかだ。
旧態依然とした男社会の代表である豊川悦司と、松雪泰子の対立の構図。フラを人生を変える契機としてすべてを賭ける蒼井優や山崎静代らダンサーたち。みな演技はしっかりしているが、演出の方は少々散漫な印象も受ける。群像劇としては腰が軽く、描ききれぬキャラクターもいて中途半端な印象だ。そのためか、上映時間が長く感じる。軽快なコメディタッチでいくのか、重厚な群像感動劇にするのか、迷いながら進んでいる様子。こうした「敗者復活戦もの」がお家芸であるイギリス映画に比べると、ちょいとぶきっちょだ。
そのほか演出の問題点としてはこの映画、かなりお涙頂戴が露骨だ。それは韓国映画並のくどさで、後半1時間はずっとそればかりやっている。劇伴音楽もいかにも泣いてくださいといわんばかりだし、踊りの得意な蒼井優のワンマンショーとなるクライマックスのフラシーンにしても、素晴らしい見せ場ではあるが、時間がやたらと長く、やりすぎだ。
結局のところ、『フラガール』は題材選びなど着想は良かったが、もう少し抑え気味にドラマを構成していったらなおよかった。これを楽しめるのは、たとえば韓流メロドラマで泣けてしまうような、演出に抑制の無いドラマでも大丈夫、という人に限る。