『イルマーレ』55点(100点満点中)

メインアイデアに溺れているが、韓国版よりは上

ネタ不足のハリウッドは、世界中の映画作品から新アイデアを求めているが、活況の韓国映画界もその有力な対象のひとつ。このファンタジックなラブストーリー『イルマーレ』も、2001年の同名韓国映画のリメイクだ。しかも、「リメイクはオリジナルより劣る」という鉄則を、見事に覆した珍しいパターンだ。

湖畔に建つ全面ガラス張りの瀟洒なデザイナーハウスにすむ女医(サンドラ・ブロック)は、ある日シカゴに引っ越すことになった。彼女は、引き払い時に郵便ポストに次の入居者あてメッセージを投函して去る。やがてシカゴのマンションに返事がくるが、驚くべきことに、その手紙は2年前の2004年に湖畔の家に住んでいた、彼女の前の入居者(キアヌ・リーブス)からだった。2年の時を越えた不思議な文通に夢中になる二人は、やがてお互いに好意をもち、2006年で待ち合わせてデートする事になるが……。

タイムマシン機能付きの郵便ポストというファンタジックなアイテムと、2年間の時間がずれたままの進行が生み出すミステリアスなオチ。それが映画『イルマーレ』の、米韓共通のメインアイデアだ。

両者とも、売り物はおしゃれなデザイナーズハウスがたたずむ湖畔の美しい風景。その映像美の中で、素敵なラブストーリーが進行するという、女性が喜ぶジャンルの作品といえる。

ただ、私などから見ると韓国版は、現実性を無視したトレンディドラマ的な設定や、パラドックスを無視した強引なエンディング(主人公があの時点で現れたら、ただの変質者扱いで終わりだ)により興ざめする、あまり高い評価を与えにくい映画である。

一方この米国版は、オリジナルの長所だった映像美はそのままに、そうした韓国版の弱点を、完全とはいわぬまでもある程度修正しており、普通のカップルが普通に見られる程度の恋愛映画へと改善している。このあたり、さすがはリメイク大国アメリカ。リメイクのテクニックは世界一だ。そんな称号はいらないか。

韓国版から微妙にバージョンアップした結末は、私のようなミステリ好きには早い段階でバレてしまうものの、それ以外の観客にとっては十分な驚きを与えてくれるだろう。ただ、私が中盤の流れから予想していた二つのエンディングのうち、頼むから選ばないでくれと思っていたノーテンキな方を、ものの見事に選んでくれたのには閉口した。このへんが、ハリウッド大作映画の限界か。いずれにせよ、先読みをしながら映画を見る人には、この作品は向いていない。

米韓共通して『イルマーレ』最大の問題点は、最初にあげたファンタジーとしての設定に、必然性が薄いということ。つまりは、このアイデアが単に、脚本のための遊び要素にとどまっているということだ。さらに、アイデアにおぼれて中盤、登場人物たちがチンタラとよけいな行動をとる分、終盤がご都合主義的になり、こちらをイライラさせるのも問題。時間の壁を、いとも簡単に乗り越えてしまうようでは、なかなか話も盛り上がらない。

とはいえ、私が見に行った一般試写会(若い女性ばかりであった)では、まわりからしくしく泣いている声が聞こえ、同行した映画好きのスタイリストに聞いても「良かった。アンタの意見はヘン」などと言われたくらいであるから、恋愛映画好きの女性はあまり気にせず見に行ってみても良いかもしれない。



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