『出口のない海』40点(100点満点中)

古いタイプの反戦映画

『出口のない海』は、これまで何度か映画で扱われている、人間魚雷「回天」をテーマにした反戦映画。

「回天」とは、高性能魚雷(通常の3倍程度の爆薬を搭載し、一発で戦艦を沈めるほどの破壊力を有する)に操縦席を設けた特攻兵器、自爆兵器のこと。帝国海軍には、死を前提とした兵器は決して採用しないという人道的な伝統があるのだが、それでも採用せざるをえないほど、当時の戦局は追い詰められていた。

この映画は、そんな回天の搭乗員に志願した若き海軍兵士たちとその周辺の人間模様を、迫力ある潜水艦戦闘シーンを織り交ぜて描いた、万人向けの見やすい戦争スペクタクルだ。

ときは戦争末期、主人公の甲子園優勝投手(市川海老蔵)は、日ごと激しさを増す戦争の中、回天の搭乗員に志願する。

この映画のよい所は、のっけから激しい駆逐艦との爆雷戦闘場面からはじまる点。こと日本の戦争映画はくどくどと前振りが長い傾向があるが、これはいきなり激しいクライマックスから始まるので、せっかちな現代人も一瞬でのめりこむことができる。

劇中で描かれるとおり、当時の潜水艦戦闘は非常にキツい。バッテリ容量が少ないから、ちょっと長期戦になれば全員が横になり、エアコンの類はスイッチを切られ、電気と酸素の節約のため、汗だくで耐えなくてはならない。狭苦しい艦体の中で、呼吸が徐々に苦しくなっていく様子がひしひしと伝わってくるこの演出はなかなかよかった。

この映画、そうした潜水艦映画としての魅力は、そこそこ味わえるといえるだろう。ちなみに現代の原子力潜水艦は、その燃料がほぼ無尽蔵であることから、真水や酸素、電気を使い放題という、真の意味での潜水艦(食料が続く限り、何日間でも潜り続けていられる)となっている。

さて、『出口のない海』は、リベラリストの山田洋次(『男はつらいよ』シリーズ)が脚本を書き、朝日新聞社やテレビ朝日がフィルムパートナーズになっているほどの映画だから、反戦色の強い作品となっている。また、佐々部清監督&横山秀夫原作という、『半落ち』のコンビだからもっとダイレクトなお涙頂戴かと思いきや、それはさほどではなかった。

さて、反戦についてだが、戦争映画の多くは結局のところ、戦争はなるべく避けようという主張(これはもちろん正しい)を込めているものだから、それ自体は何の問題もない。問題は、その方法論である。これについては、昨年公開され大ヒットした『男たちの大和』と比べるとわかりやすい。

どちらも特攻をテーマにした戦争映画で、登場人物がバッタバッタと死んでいくが、決定的な違いがひとつある。それは、『出口のない海』からは、ヒロイズムが完璧に排除されているという点。この映画の兵隊たちはみな非常にカッコ悪い、まったくの無駄死にを遂げる。

逆に、愛するものたちを救うため、立派に散っていった男たちを英雄的に描くことで、そこまで彼らを追い詰めた戦争というものに対し、NOと言う。そうした反戦主張の手法をとったものが『男たちの大和』だ。

兵士たちの死を徹底的にみっともなく、かっこ悪く、ただ残酷に、無意味なものとして極端に描くことで、戦争の無意味さを描くという昔ながらの『出口のない海』の手法、これを受け入れられるかどうかが、本作を認められるかどうかの分かれ道だ。

私としては、こういう手法はもう古いと思うし、時代に則してはいないと思う。じじつ、主人公がキャッチボールをしながら回天乗組員に志願した理由を語る場面には、何一つ現実性も説得力も感じがたい。

主人公らは、まるで「5時になったらなに食べて帰ろうか」と相談しているヒマなサラリーマンのように、「戦争が終わったら何やろうか〜」などといっている。あまりに他人事のような戦争に対する態度に、猛烈な違和感を感じざるを得ない。ここはあきらかに作り手の主張を語る重要なシーンだから、劇中のキャラたちが若く未熟な志願兵だからこういうセリフになったとか、そういう言い訳は通じまい。この場面の甘さは、テーマに対する作り手の認識の甘さそのものと見て間違いはない。

これからの時代、反戦映画を作るならば、この映画のように、戦争とはいかに馬鹿馬鹿しく、無駄で、愚かか。そういう思考停止の内容ではだめだ(じつは、そうした左翼的映画には傑作も多く、見ると私でも涙が出るが、本作はそのレベルに達していない)。もう、若い人はそういう主張はうざったいだけで、受け入れてくれない。

それより、戦争の発生原理をしっかりと考察して伝えた上で、どうすれば避けることができるのか。そうした本質的な部分に触れた理性的な反戦映画、戦争映画に、これからの映画人はチャレンジしていってほしいと思う。

出口のない海
原作本です。普及価格で登場。この作家は社会派ミステリのイメージが強いですが、この原案については、作家としてのブレイク前に書いたものだそうです。
語り継がれる戦争の記憶 (1)
で、その原案というのがこのコミックなんだとか。3部作で、第2巻がそれにあたるのかな。文庫版になって再編集されたそうで、内容は未確認です。申し訳ない。ただこの三枝さんのドキュメントコミックは、どれを読んでも泣かされますな。


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