『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』65点(100点満点中)
いかにもアメリカ人が作った、いいかげんなニッポン描写が楽しい
『ワイルド・スピード』シリーズは、一言でいえばハリウッド製ヤンキー映画。毎回どこぞの街を舞台に、チョイワルな若者たちが改造車の公道レースに命をかける。シリーズのどれを見ても、ピカピカのカラフルなレースカーが爆音をあげる、迫力満点のチェイスシーンが見所になっている。クルマ好きのカップル向き娯楽映画だ。
このパート3最大の話題は、舞台が東京ということだろう。アメリカ映画界が日本を舞台にした映画を作ると、妙な勘違いによる独特の奇妙なムードが生まれることがよくあるが、この映画もまさにそれ。この映画を世界で一番楽しめるのは、おそらく日本人、それも東京をよく知る人だろう。
主人公はカリフォルニアの高校生(ルーカス・ブラック)。無類のクルマ好きを自認する彼は、今日も引き際を知らぬ無茶なレースで愛車をつぶしてしまった。いよいよ少年院行きかと思われたが、町を出ることを条件になんとか処分保留となる。彼は在日米軍基地に勤める父親を頼り、東京にやってくるが、彼の興味を引いたのはやはり公道レース。それも、日本ならではの狭い場所で行うドリフトレースだった。
さて、そんなわけでシリーズのマンネリ打破のためキャストは一新。舞台も東京で、レースもドリフトという、見た目はこれまででもっとも個性的な一本となった。ストーリーは独立しているのでこれから見てもいいが、パート1を見ておくとちょっといいことがあるかもしれない。キャストには日本人も登場し、千葉真一や北川景子、妻夫木聡や柴田理恵といったおなじみの顔を見ることができる。
レースシーンは冒頭からすごい。音響はしっかりしているし、細かいカット割や移動撮影によって、誰もが体感できる迫力に満ちている。主人公父子がすむアパートは、とてつもなくボロイのに、レースとなると映画は途端にカッコよくなる。
この主人公父子のアパートが、ゴキブリも逃げ出すほど狭苦しいのにはわけがある。世界的に有名な日本の住宅の狭さをかように強調するのは、その後の地下駐車場(!)で行われる狭苦しいドリフトレースに呼応する伏線となっているのだ。
この地下レースがまた笑える。場所はなんと兜町(日本銀行も程近い日本の中枢、金融地区だ)の地下パーキング。ここに不良外人が多数あつまり、ウォンウォンと改造車の爆音を遠慮なくならしながら、夜な夜な違法レースを行っているのである。どんな無法地帯なんだ、東京。
ドリフトレースは期待通りの面白さ。実写版『頭文字D』を見た人ならわかると思うが、あのとき感じたような気持ちのいいスライド感覚を存分に疑似体験できる。
そのほかこの映画は、突込みどころが満載で、バカ映画くささが随所に感じられて妙にいとおしい。ヒロインの女子高生はえらく四角い顔をしてるし、主人公たちは高級車を遠慮なくガンガンつぶしていくし(どれだけ金持ちなんだキミらは)、東京の街はどことなく変だしと、トンデモ度は満点だ。
こんな日本あるわけねーよ、と、心の中で突っ込みながら見れば、楽しさも倍増。これが舞台が東京じゃなければせいぜい40点程度の内容だが、日本人にとってはなかなか楽しい一本だ。肩の力を抜いて、心に余裕を持って鑑賞に挑みたい。