『靴に恋する人魚』55点(100点満点中)

CGを駆使して作り上げたおとぎ話的世界観が面白い

ビビアン・スーといえば、テレビ番組「ウッチャンナンチャンのウリナリ!!」の企画バンドとして90年代後半に活躍した「ブラックビスケッツ」のメンバーとしての姿が記憶に新しい。当時、バラエティ番組での的確なボケや、台湾人の女の子特有の幼い顔立ちが、お茶の間で人気を博した。

最近の彼女は、母国台湾に戻って芸能活動を続けていたが、このたび主演映画が日本でも公開される運びとなった。それがこの、おとぎ話的恋愛ドラマ『靴に恋する人魚』。公開中の『キンキーブーツ』同様、靴を題材にした、一風変わった作風の映画だ。

「人魚姫」を読んだ車椅子の少女ドドは、予定される手術によって足が治る期待とともに、その代わりに自分も何かを失うのではないかと不安を抱いていた。もちろんそんな事はなく、彼女は無事歩けるようになり、やがて靴が大好きな美しい女性(ビビアン・スー)へと成長した。素敵な歯科医のスマイリー(ダンカン・チョウ)とも出会い、幸せの絶頂にいるかと思われたドドの運命は、そこから大きく転換をはじめる。

何かを得たものは、何かを失うことになる。そんな教訓的なストーリーが、まるで絵本のようなメルヘンチックなビジュアルと、アンディ・ラウ(『インファナル・アフェア』シリーズ)の渋いナレーションによって、淡々と展開する。

原色を多用した幸せ感たっぷりの可愛い映像と、残酷な物語のギャップは、古典的な御伽噺のようで相性はよい。一言でいえば、人生楽ありゃ苦もあるさ、という事だが、こうした見せ方をしてくれると、それなりに心には残る。

ビビアン・スーは、日本で活躍していたころとほとんどルックスが変わっておらず、相変わらず初々しい。セリフが少ない分、表情その他の演技力を問われる難しい役柄だが、そこそこ頑張ってこなしているようだ。

映画としては、少々テーマが普通すぎてやや退屈。大人が見る御伽噺としては、もう少しなにかひねりがほしかったところ。ただし、見終わってみると、タイトルはなかなかしゃれている事に気づく。ビビアンの脚線美と、かわいらしい靴の数々は、それだけで目の保養にもなろう。



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