『40歳の童貞男』70点(100点満点中)
下ネタで笑いまくろう
近年、比較的高年齢な男性の童貞率が話題になっている。週刊誌などで見たところによると、40歳の約10%が童貞なのだそうだ。カトリックのような厳しい戒律がある宗教とはほとんど縁のない日本では、とくに童貞という事実は重荷となって男性の背中にのしかかる。そこで公開されるのが『40歳の童貞男』。秀逸な邦題が話題の、アメリカ製コメディ映画だ。
テレビゲームやフィギュア収集が趣味のアンディ(スティーヴ・カレル)は、マジメすぎる性格がたたって40歳の今も童貞。しかも、悪いことに職場の悪友3人組に、その事実を知られてしまう。翌朝には、早くも職場全員に知れ渡ってしまった上、なんとか童貞喪失させてやろうという周囲の余計なお世話に悩まされる羽目に。アンディとしては、彼らが紹介するナンパな女性たちより、誠実でやさしい向かいのショップ店員(キャサリン・キーナー)が気になるのだが……。
『40歳の童貞男』は、高年齢童貞をテーマにした、ロマンティックコメディの亜流である。しかし、日本で問題になっているような、「趣味にハマるあまり、女性とのコミュニケーション能力を得る機会がなく、結果として童貞のまま中年になってしまったオタク」についての社会風刺や、問題提起はほとんど行わない。単に、高年齢童貞という主人公の設定として、もっとも説得力がある"オタク"を採用したというだけ、といった印象だ。
だから、主人公はたとえば『電車男』のような、極端に対女性コミュニケーション能力に劣った筋金入りのオタクではなく、あくまでマジメすぎて機を逃しただけ。多少服のセンスに問題はあるとしても、顔はハンサムだし、会話もなかなか面白い。女性を目の前にして緊張してオドオド……ということはない。だから、オタクが主人公だからといって、そのイタさをネタにすることはあまり無い。
アンディは、悪友たちにクラブに連れて行かれると、えらくスタイルがよくて、頭の弱そうな金髪美人にすぐ気に入られたりする。そんなわけで、本物のもてないオタクが、この映画から何らかのヒントを得ようとしても、あまり参考にはならないであろう。
それよりこの映画は、「とにかく笑って笑って笑いまくってくれ」と、そういうコンセプトで作られている。高齢童貞ではないが、それなりに女性をひっかける苦労を知っている、すなわちごく平均的な人々が、休むまもなく笑いつづけられるような、ギャグ満載の一般向けコメディとなっている。有名なミュージカルのパロディなんかもあるが、元ネタを知らなくてもまず問題はないだろう。
面白いし、英語がわからなくても字幕で十分笑えるが、ただ笑っておしまいという映画だから、それ以上を望む方には少々物足りない。とにかく純粋に笑いに行く、という気持ちで鑑賞することが望ましい。ただし、116分もの上映時間はさすがに長く、最後は疲れる。
題材が題材だから、またレイトショーであるから、ちょいと大人のカップルにぴったり。鑑賞後の会話が弾みそうな、楽しい作品だ(除童貞)。