『マイアミ・バイス』40点(100点満点中)

マイアミ・バイス風味ではあるが、マイアミ・バイスとはちょっと違う

30代以上の方にとって『特捜刑事マイアミ・バイス』は、海外ドラマの中でも抜群の知名度を誇るに違いない。80年代に地上波で夜のいい時間帯に放映されていたから、夢中になった人も多かろう。本作はそのリバイバル映画化となる。

合衆国各捜査機関による合同捜査の情報が漏れていることが明らかになり、マイアミ警察特捜課の潜入捜査官、ソニー・クロケット(コリン・ファレル)とリカルド・タブス(ジェイミー・フォックス)に、漏洩元の調査と割り出しが命じられた。彼らは麻薬ディーラーに扮して犯罪組織に乗り込み、捜査を開始する。

この映画については、テレビ版のファンが主な観客になると思われるが、彼らにとってはあまり満足の行く出来栄えではなかろう。オリジナルテレビシリーズで製作総指揮を担当していたマイケル・マンが、なんと200億円以上を投じて監督した超大作だが、どうも企画のコンセプトを間違えているような気がしてならない。

ソニーやタブス、マーティン警部やジーナなど、シリーズのファンにはお馴染みの名前が並び、それなりに設定も受け継いでいるが、キャストはイメージを一新。中でもコリン・ファレル(『デアデビル』ブルズアイ役など)のソニーはワイルドすぎて、フェラーリやイタリアンスーツを着こなしていたオリジナルのドン・ジョンソンのスマートさとはかけ離れている。

また、テレビドラマとしては最高クラスだったサントラも、あまりよくない。何よりヤン・ハマーによる名テーマ曲を失ったことが大きい。

世界観、全体の雰囲気も、マイケル・マン監督お得意の夜のシーンはムーディでいいが、それと対になる昼間のシーンが少なく、どうも違う印象がする。昼の一大観光地と、夜の麻薬犯罪都市としてのマイアミを対比した点が、テレビ版『マイアミ・バイス』の面白さだったのだが。

ただ、リアル志向のガンファイトの出来はまあまあ。テレビ版では本物の警察官による指導がおこなわれ、エントリー(突入)時の動きのリアルさは、当時いいかげんな刑事ドラマしか知らなかった日本人の視聴者を驚かせた。両手で銃を下向きに保持し、コーナーでは一瞬だけ首を出して先を確認する、捜査官の無駄のない動きには、みな惚れ惚れしたものだ。

この映画版の刑事たちも、そんなシリーズの伝統?を受け継いで、相当ストリクトな動きをしている。銃撃の折には、腕や脳みそが吹っ飛ぶなど、直接的な残酷シーンもある。とくに、クライマックスの銃撃戦では、サウンドデザインがかなりよく出来ていて、音響自慢の映画館で見れば、相当な迫力を味わえるだろう。

本当は、こうした過去のシリーズの遺産をもっと尊重して、徹底的に雰囲気を受け継いだ映画化をすればよかったのではないか。あのシリーズは本格志向だったのでまだ古くなっていないから、新たなファンもつかめたと思うのだが。

この映画版は、役の名前が同じで、舞台が同じマイアミで、空撮多用のボートチェイスやカッコイイクルマが出てくるあたりが共通するだけで、肝心の魅力、面白さの部分を受け継いでいない。これでは、『マイアミ・ヴァイス』風味のフツーのバディムービーにすぎない。

では、ファン以外にとってはどうかというと、ストーリーが地味で遊び心に欠けるから、あまり面白くないだろう。そんなわけで、膨大なお金をかけた刑事ドラマではあるが、私はあまり積極的にはすすめない。



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