『THE WINDS OF GOD -KAMIKAZE-』50点(100点満点中)
個性あふれる意欲作ではあるが、出来栄えは平凡
元陸上自衛隊員で、保守派として知られる俳優今井雅之が、自身の代表作である舞台劇を、自ら脚本を書き、監督して映画化。海外で高い評価を得た舞台の映画化ということで、全編英語による脚本、セリフの意欲作となっている。
NYで活動するお笑いコンビのマイク(ニコラス・ペタス)とキンタ(ウェイン・ドスター)は、まったく才能がなく、ついにライブハウスを首になった。しかも直後に遭遇した交通事故により、二人とも戦中へとタイムスリップ。ときは1945年の8月1日、神風特攻隊。マイクは岸田守海軍中尉(今井雅之)、キンタは福元貴士海軍少尉(松本匠)の体へと転生していた。
現代アメリカ人の二人が、よりにもよって特攻隊員の体に転生するというお話。しかも、現代人としての記憶や人格を保ったままの転生だから大変である。平均程度の歴史知識しかない、ごく普通のアメリカ人である彼らに、特攻隊など理解できるはずもない。案の定、現場を混乱させる彼らの姿を、時にコミカルに、そしてシリアスに描き出す。全編英語によるファンタジーだ。
低予算戦争ファンタジーだから、ストーリーやセットや舞台設定などは考証を練ったつくりというわけではない。象徴的な、どちらかというと演劇的なものだ。そこで、各役者の演技を丁寧にカメラに収めていくという形の映画である。
ただしそれでも、数少ないゼロ戦の実動機を実際に飛ばしたり、グラウンド・ゼロ(9.11テロによるWTC崩壊跡地)でロケを行うなど、果敢な挑戦も見せている。
私は舞台版は未見だが、確かにこれを演劇としてみたら、とくにクライマックスなど相当面白いのではないかと想像する。ただし、映画となると話は別だ。演劇では許せるストーリーや心理描写の省略も、映画では腑に落ちない唐突な展開として写る。
二人のアメリカ人がこの時代に持ち込んだ現代アメリカ的価値観が、45年当時においてはいかに的外れなものか。マイクが当初、不理解から特攻隊を激しく非難したストーリーの流れをみて、私はそのことを浮き彫りにし、「歴史には、その時代の視点で見なければならないことがある」というテーマを見せてくれるのかと思っていた。しかし『THE WINDS OF GOD -KAMIKAZE-』は、残念ながらその点にはあまり深く突っ込んでくれなかった。それよりはむしろ、監督の今井雅之の願いである反戦、そのテーマを強く打ち出したものとなっている。
クライマックスは、ちょっと唐突感を感じるものだが、これは登場人物にある種の信念が生まれる前に、この行動を取らせてしまうからに他ならない。そこをもっと描いておかないと、真の感動は生まれにくい。