『スーパーマン リターンズ』85点(100点満点中)
クリストファー・リーヴもこれなら満足に違いない
スーパーマンは、アメコミにおけるヒーローの元祖であり、その代名詞的存在だ。日本では、70年代〜80年代にかけて、クリストファー・リーヴ主演で映画化された作品がもっとも印象に残っている映像化と思うが、本作はそれを引継いだ、正当なる続編にあたる。
アメコミが続々と映画化されているハリウッドにおいても、スーパーマンだけは別格。この巨大なプロジェクトの完成までには、監督や脚本家、主演、助演俳優候補が何人も現れては消え、ストーリーも何年間もかけ、じっくり練られていった。
スーパーマン(ブランドン・ラウス)が地球を去ってから5年。彼が再び戻ってきたとき、地球は変わっていた。犯罪は急増し、善良な人々もヒーローの存在を忘れ、恋人のロイス(ケイト・ボスワース)は別の恋人を作り、子供もいた。失意の彼を、やがて釈放された宿敵のレックス・ルーサー(ケヴィン・スペイシー)が狙う。
『スーパーマン・リターンズ』は、あらかじめ"スーパーマン"をわかっている人々が楽しむための作品だ。上記あらすじに出てくる3人がそれぞれどういう性格で、どんな関係なのか。また、スーパーマンの仮の姿、クラーク・ケントの生い立ちや育ての親など、基本的な設定についてもほとんど説明はない。観客はみな、当然わかっているものという前提で話は進んでいく。
そんなわけで若い方は、(ストーリーの流れからみて)事前に映画版のパート1と2を鑑賞してから、本作に挑んでほしい。それだけの手間をかける価値が、この映画にはある。
さて、それ以外の、つまりクリストファー・リーブ主演の旧シリーズになじみがあるオジサマ方にとっては、これはもう最高の出来というほかない。新しいスーパーマンを演じる新人のブランドン・ラウスは明らかにリーヴのイメージの継承者として選ばれているし、世界観を受け継いだまま、最新の映像技術による魅力を加えた、まさしく「2006年に再び作る意義のある」最新作になっている。
とくに、予告編でもあえて温存した、映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズによる最高傑作、あの有名な主題曲がかかる瞬間は、言葉では言い表せぬほどの感動があるに違いない。
その後も、「犯罪が同時多発する現代にヒーローは役立つのか、必要なのか」という問題に、小細工なしで真っ向から立ち向かうヒーローの姿に感涙であろう。これこそ、人々が求める真のスーパーヒーローの姿というやつだ。9.11を思わせる旅客機墜落を食い止める場面、そしてNY市民を思わせる人々がスーパーマンの危機に団結する場面、どの見せ場も否応なしに盛り上がる。
聖書におけるユダヤ人の物語、また三位一体の教義を意図したと思しき筋書きは、これまた最高の落としどころで、鑑賞後の後味もよい。全体的に力の抜き方がうまく、下手なファンタジーにありがちなバカばかしさもなく、大人が十分のめりこめるものになっている。
配給のワーナーブラザースは、「この夏、真打は最後にやってくる」とのコピーで本作を宣伝しているが、これに関しては過大広告ではなさそうだ(『ブレイブストーリー』は真打じゃなかったの? とのツッコミは置いておこう)。『スーパーマン リターンズ』は、30代以上の人に強くすすめたい、この夏1、2を争う傑作。これなら天国のクリストファー・リーヴも、満足しているに違いない。