『鬘 かつら』40点(100点満点中)

不治の病にお涙頂戴、いつものワンパターン韓流ホラー映画

カツラに宿った怨霊を題材にした韓国ホラー映画。この時点で、髪が薄い男性諸氏を誘うことは絶対に許されない映画である。

ヒロインのスヒョン(チェ・ミンソ)は、まだ若い女性ながら、抗がん剤の副作用で髪の毛をすべて失ってしまう。姉(ユソン)は、余命わずかな彼女のため、町でカツラを購入し、退院させる。その姉も、交通事故で声帯を損傷、声を失っていたが、二人は穏やかな暮らしをはじめる。やがてかつらを身につけたスヒョンは、別人のように明るくなり、病状も嘘のように良くなった。ところがある日、スヒョンのかつらを無断で借りていった姉妹の友人が、謎の死を遂げてしまう。かつらを失ったスヒョンも、異常ともいえる錯乱振りを見せるにいたり、姉はこのかつらに隠された異様な力を意識するようになる。

姉も妹もえらく美人だ。とくに、『亡国のイージス』で、存在意義がよくわからない北の女性スパイを演じていたチェ・ミンソは、今回病気の妹ということで、スキンヘッドに大幅なウェイトダウンという役作りを実現、ほとんど余分な体脂肪がない、少年のようなバックヌードまで披露している。

そんなわけで、たいへん目の保養になる映画であるが、ネタ自体はよくあるパターンの寄せ集め。髪を恐怖のアイテムとして扱うホラー映画は数多いし、何かにたたりがついていて、かかわった人が死んでいくというプロットも、もういいかげん見飽きたといいたくなるものだ。

姉は声を失っており(交通事故シーンがエグい)、叫べないスクリーミングクイーンという新趣向だが、その必然性というか、これを話に生かしきれていないのが惜しい。

かつらに関する真相も、大して伏線がないままに、次々と新事実がわかっていく怒涛の終盤に、驚くというより、口ポカーン状態。ここまでくると、ほとんど滅茶苦茶だ。私としては、そもそもあんな怪しげな店でカツラなんて買うなと、美人姉に突っ込みたくなる。それですべて解決だ。

それにしても、韓国という国はこういうホラー映画でも、観客を無理やり泣かせようとする。この映画にしても、医者からの留守電への伝言で終わっておけばいいものを、その後に蛇足としか思えない、泣かせ映像をくっつけてしまう。こういう所が、泣きたい症候群の韓流ファンたちに受けるのかもしれないが。

おまけに、この映画でもヒロインは「不治の病」だ。もちろん、男女のグダグダな三角関係も出てくる。ここまでくると、私を笑わせるためにわざとやっているんじゃないかとさえ思う。インド人が、映画に踊りと豪華な衣装とダンスを必ず求めるように、韓国人は映画に、不治の病と三角関係とお涙頂戴を求めているのか。

ホラー映画としては、ビックリシーンが多く、何度も飛び上がらせられるが、内容自体にこちらをはっとさせる何かがあるわけではない。ワンパターンに過ぎる、量産品ホラー映画というのが結論だ。



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