『日本沈没』40点(100点満点中)

物語、恋愛ともども、低年齢向けアニメ並のリアリティ

中ロ両国をにらむように位置する、強力な西側軍事勢力=日本列島の事を、不沈空母、などとどこかの国の人は呼んだが、その日本列島が文字通り沈んだら、いったい世界はどうなるのか。そして、ここにすむ一億数千万人の国民は、どんな運命をたどるのか。

民族の自意識を問う、そんな問題提起をして大ヒットとなった小松左京の原作小説、そしてその73年の映画化作品を、まったく新しいパニック超大作として作り直したのが『日本沈没』。

草なぎ剛&柴咲コウという、大ヒット間違いなしコンビを主演に据え、73年版の大ファンという樋口真嗣監督(『ローレライ』ほか)が、得意とする特撮技術をふんだんに生かして作ったド派手な娯楽映画だ。

地殻変動により、日本列島が1年後に沈んでしまうという調査結果が出た。まもなく各地で火山噴火や地震など、その兆候を示す天変地異が続出。内閣総理大臣(石坂浩二)は、諸外国に自国民の受け入れを要請する。一方、深海潜水艇の凄腕パイロット(草なぎ剛)は、好意を感じつつある消防レスキュー隊員(柴咲コウ)らを守るため、地球科学の田所博士(豊川悦司)と共に、ある捨て身の作戦に出る。

ウン十億円をかけた夏の超大作で、絶対コケるわけにはいかないから、人気者の二人の恋愛模様中心に、ストーリーが大きく変更された。そのため、原作のオリジナリティやテーマは薄れ、某ハリウッド映画と、妙にそっくりなプロットになってしまった。これでまず、原作やオリジナル作品のファンはガックリくる。

さらに、樋口監督はもともと特撮が専門であるためか、人間ドラマを撮るのが不得手なようだ。とくに恋愛関連の描写は、もっとも苦手な分野ではないかと想像する。草なぎと柴咲の恋模様は、なんだか高校生が描いた同人漫画並の恥ずかしい台詞まわし、演技であり、説得力が甚だしく低い。

そして、私が一番残念だったのは、この監督が政治問題や国際情勢の予測に、かなり疎いという事であった。前作『ローレライ』でも、軍隊描写のリアリティのなさが目立っていたが、本作でも肝心の日本政府の対応や各国の情勢、そうしたシミュレーション要素が、ほとんど子供アニメレベル、非現実的であり、到底楽しむ事はできなかった。

唯一期待できるのは、得意の特撮部分、VFX満載の災害パニック場面ということになるが、これにしても、近年のハリウッド大作と比べれば、迫力の面でどうしても劣る。日本映画にしては凄いね、という事はいえるかもしれないが。また、撮影協力を受け入れてくれた自衛隊各軍と消防庁の車両や艦艇ばかりをクローズアップしすぎて、とても不自然な印象を受ける。あたかも、自衛隊&消防ショーのごとき趣きである。

役者たちも、脇には光る人たちもいるが、主演の二人に気迫というものが感じられない。特に柴咲は、相変わらずきちんと役作りをやっているんだかどうだかといった感じ。あれだけ線の細い身体で、屈強な男の消防隊員と混じりスクリーンに写るという事がどれほど困難か、わからないわけでもあるまい。ヘルメットがぶかぶかでずり落ちそうな女の子が、有毒ガスが蔓延する災害現場で人命救助など、どう見てもできるようには思えないが。

そんなわけで新『日本沈没』は、見慣れた自分の町がリアルにぶっ壊れていく様と、主演二人の、子供向け恋愛劇を、深く考えずに楽しめるような、ごくわずかな人にだけオススメする。



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