『アルティメット』55点(100点満点中)

とても高度なことをやっているが、見せ方が悪い

最近のお客さんは目が肥えてるから、月並みなアクション映画では満足しない。そこでハリウッドはたくさんお金をかけて、CGやワイヤーワークを使った華麗な画面作りに没頭し、タイの俳優トニー・ジャーはそうした上げ底なしの、リアル肉体アクションにこだわる。

そんな中、フランス映画『アルティメット』は、後者に近いコンセプト。製作者リュック・ベッソンが、自身の作品で使ってきたスタントマン、シリル・ラファエリと、映画『YAMAKASI ヤマカシ』のモデルとなった、ビルを素手で登ったりするパフォーマンス集団の創始者ダヴィッド・ベルをダブル主演にして作った、純粋アクションムービーだ。

舞台となる近未来のパリには、治安悪化のため市内から隔離されたバンリュー13という地区がある。無法地帯と化したこの地区に、盗まれた政府の爆弾が運び込まれた。爆弾の解除任務を与えられた捜査官(シリル・ラファエリ)は、バンリュー13で生まれ育ったチンピラ(ダヴィッド・ベル)をガイドに雇い、侵入する事にした。

『アルティメット』の主演二人は、本物のアスリートであるから、どのアクションも自分たちでやっている。そしてその内容は、専門家ならではの非常に高度なもので、どれも賞賛に値する。たとえば車同士が激突する場面があるが、その間にいる二人が、ジャンプしてそれをかわすとき、彼らはなんと走っている車に背を向けてこなす。タイミングが狂ったら確実な死。大変な恐怖感があったであろうことは想像に難くない。ものすごいスタントである。

しかし悲しいかな、この映画がデビューとなる新人監督のピエール・モレルは、彼らの才能を十分活かすことができなかった。つまり、アクション自体はすごいのに、見せ方が下手なのだ。

たとえば、二人は大変なスピードで動いているが、それをさらに早いカメラワークと細かいカット割で、スピードを高める調理をしてしまうから、画面で何が起きているかがわかりずらく、演出効果としては裏目に出ている。

そもそも彼らの凄みを観客に伝えるなら、役者が本当に危険なスタントを演じていることを見せるため、もっと表情にしっかりピントを合わせるとか、着地点にマットや網をしいていない事を強調するなどしたらいい。

なにしろ映画撮影の現場では、主演俳優が捻挫ひとつでもしたら、撮影日程が大幅に狂い、プロジェクト全体に大変な損失を与える。そのリスクをこの映画のように頻繁に犯しているというのは、じつはたいへん凄いことで、もっとアピールしてよい部分。カットを細切れにする手法は、スタントマンを使ってごまかす、普通のアクション映画のやり方と同じであり、もったいない。

また、主演二人の個性の違いを、アクション面でも見せてほしかったところ。そうでなければ動けるW主人公にした意味が薄い。

『アルティメット』は、まるで受けのないプロレスのようだ。やっていることはハイレベルなのに、それを引き出してくれる相手がいない。ストーリーとアクションの整合性もしっかりしていて、映画としてとても面白いのに、肝心のウリであるスタントシーンが不完全燃焼気味なのは惜しい限り。



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