『サイレントヒル』75点(100点満点中)

今夏最高の本格ホラームービー

コナミのゲームソフト『サイレントヒル』といえば、カプコンの『バイオハザード』と並ぶ、プレステ時代の傑作ホラータイトルだ。しかし、ゲーム的な、ライトなアクションホラーとして映画化された『バイオハザード』とは、映画化のコンセプトが大きく異なる。

ストーリーは、ゲーム版のパート1を元にしている。ゲーム版では父親だった主人公が、母親に変更されている。これにより、テーマが母子愛という、誰の目にもわかりやすい、普遍的なものとなった。この方が、アメリカでの受けはよいだろうし、なにより、演技力を備えた美人女優で知られるラダ・ミッチェルがヒロイン(しかも妙に体の線丸出しな薄着)なら、世界中の男性客が喜ぶ。商業面でも一石二鳥というわけだ。

主人公ローズ(ラダ・ミッチェル)は、情緒不安定な9歳の娘シャロンが口走る「サイレントヒル」という地名が気になっていた。調べたところ、30年前の火災の影響で、今ではゴーストタウンと化した実在の町とわかる。彼女はそこに娘を連れていけば、何かがわかると思い、早速出かけるが、町で事故を起こし、気が付くとシャロンがいなくなっていた。途中から母子を追ってきた、近くの町の白バイ婦警(ローリー・ホールデン)とともにシャロンを探す彼女の前に、やがて恐ろしいクリーチャーが現れる。

ゲーム版の大ファンであるクリストフ・ガンズ監督は、見事なまでに世界観の再現に成功した。霧につつまれた静かな町、降りしきる白い灰のようなもの。突如、闇から現れる恐ろしい何か。これはまさしく、ゲーム『サイレントヒル』の世界だ。多少、冒頭の展開は違うものの、いきなりこの不気味な町をさまようことになる唐突感も、まさしくこの作品独特のもの。間違いなく、ゲーム体験者はのっけから違和感を感じることなく引き込まれよう。

さらに素晴らしいのは、この映画がアメリカのホラージャンルにしては珍しく、コケオドシを一切使っていない点だ。コケオドシとはたとえば、突然大音量とともに画面に何かが登場したりして、観客を驚かすおなじみの手法。あまりに芸がないので私はこう呼んでいる。

映画『サイレント・ヒル』は、そういう安直なやり方で客を怖がらせたりしない。常にゆったりとしたテンポで、この見事な世界観にお客さんを引きずり込み、じっくりたっぷり楽しんでもらう、浸ってもらうというコンセプトで作ってある。慎重に、腰の重い演出で、リアリティを失わぬよう、細心の注意を払いながら、ゆっくりと話を進めでいく。

客は、主人公と白バイ警官のシビル同様、何もしらないところから、少しずつこの町の謎、ルールを学んでいく。何がおきるかわからない、得体の知れなさからくる緊張感が続くおかげで、2時間超の上映時間もまったく長く感じない。

後半に入ると、かなり直接的な残酷シーン(小中学生にはキツい?!)が増えてくる。ゲームにも出てくる三角頭の恐ろしいモンスターから逃げる場面なども、ド迫力ものだ。だが決して、単なるゾンビとの追いかけっこ映画にはなっていない。

『サイレントヒル』は、安直なビックリホラーでない、本格的、正攻法のホラー映画という事で、ゲームをやったことのない人にも強くすすめることができる、良質な作品だ。とにかく、舞台がよく出来ているから、その雰囲気を楽しむ事を最大の目的として、恐怖体験を味わってほしい。夏の怖い映画としては、イチオシである。



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