『ブレイブ ストーリー』60点(100点満点中)

悪くはないが、ピクサー作品と同時期公開ではきつい

長編アニメーション映画『ブレイブ ストーリー』には、妙な悲壮感を感じてしまう。この作品の周りには、「とにかくヒットしたい、勝ちたい、負けられない、なんとしても、なんとしても!」という空気が漂っている気がするのだ。思うに制作会社のGONZOやフジテレビの頭の中には、常にディズニー&ピクサーや、ジブリ&日本テレビといった、業界の勝ち組たちの姿があったのではないか。

物語は、主人公の少年(声:松たか子)が、離婚のショックで倒れた母を救うため、願いをかなえてくれる女神さまを探すファンタジー。廃ビルの屋上にある扉を開くと、そこはまるで、剣と魔法のRPGの世界。彼はここで、ライバルの謎めいた同級生とすれ違いながら、女神さまを探すのだ。

ドラゴンボールよろしく、一つ一つキーとなるアイテムを集める過程で、彼は様々なモンスターや味方と出会い、成長する。女神に出会うころには、自身も気づかぬほど、少年は大人になっている。すなわち、誰もが受け入れねばならない、人生のある真実に気づくわけだ。それが感動を呼ぶ。

それにしても、日本には世界に誇る声優文化があるのに、わざわざ彼ら(前出の勝ち組)のまねっこのようなオールスターキャストを採用(無論、演技力やキャラクターとの整合性は、専門の声優に比べ大きく劣る)とはこれいかに。また、原作が超一流のミステリ作家、宮部みゆきながら、その個性を消し去るような無難な脚本化もどうしたものか。しかも中途半端だから、真相の生々しさが目立ち、後味も少々よくない。

『ブレイブ・ストーリー』は、作り方が万事「勝ち組を研究して成功の秘訣を盗め」的、あるいは「無難に、万人むけに」という発想である。これは到底、後発のチャレンジャーの考え方ではない。多少の失敗を覚悟しても、自分たちの武器、長所をよどみなく伸ばすという、本来やるべきことをやっていない。

制作会社のゴンゾは、デジタルアニメーションのパイオニアで、この分野においては高い技術力を持っているが、それを生かした題材選び、ストーリー作り、そして演出方法の研究が足りない。本作にしても、巨大な敵が異様な動きを見せる、デジタルアニメならではのスペクタクルシーンがいくつかあるが、その出来自体はかなりのものなのに、映画全体を揺るがすほどの重要なインパクトとして位置付けられていない。これは実にもったいない。

それに比べて、先週公開されたディズニー&ピクサーによる『カーズ』には、素人がみてもわかる、CGならではの凄さというものがあり、そのアピールの仕方もうまい。この両者には、技術や資金力以前に、題材選びやストーリー、演出力において、それはもう比べようのないほどの差がある。

ゴンゾがこの差を埋めるためには、せっかく得た素晴らしい原作、すなわち宮部みゆきの特徴、突出要素を、徹底的に再現すべきであった。中途半端に万人むけに、子供向けにアレンジしたため、結局どっちつかずの平凡な作品になってしまったのは、原作ファンとしても悔しいところだろう。

ただしそれでも、アニメ自体は平均以上であるし、それなりに感動も得られる出来ではある。ただ、残念ながら大人同士で見に行くほどのものではない。GONZOには、彼らでなければ出来ない、世界のどこにも似たものがない、個性的な次回作を期待したい。



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