『レイヤー・ケーキ』40点(100点満点中)
次期ジェームズ・ボンドがギャングを演じる
ギャングの世界はいわゆる階層社会、それはまるで、レイヤーケーキのよう。タイトルは、そんな意味合いを含めてつけてある。本作はイギリス映画で、ジャンルは犯罪サスペンスだ。
主人公はある麻薬ディーラー(ダニエル・クレイグ)。名前はない。彼は、調子のいい今のうちに引退しようと目論んでいるが、そんな折、ボスから仕事が舞い込む。それは、闇社会の顔役エディの娘を探せという指令と、仲間が入手した大量のエクスタシーを売りさばけという、彼にとっては造作もない仕事のはずだったが……。
引退しようと思うギャングに、そんな簡単な仕事を押し付けるはずもなく、この二つの指令にはどちらもとんでもない裏がある。何かがおかしいと思わせ、徐々に真相が明らかになっていく。その過程を、さめているがどことなくユーモラスな会話と、シャープな映像でトントンと見せる。中でも主人公が、敵の暗殺者を狙撃しようとするシークエンスは、サスペンスフルかつ衝撃的な場面で一番の見所だ。
主演のダニエル・クレイグは、本作のクールな演技が効をそうしたか、最新作『007/カジノ・ロワイヤル』で見事ジェイムズ・ボンド役をゲットした。この映画では少々ふけて見えるが、周りからは若造扱いされており、そのギャップがちょっとおかしい。
彼をはじめとする、個性的……というかヘンな、周りのキャラクターの行動、会話を楽しむタイプの地味な映画だ。わけのわからぬ依頼に振り回され、それでも裏社会を生き抜いてきた男らしく、適切に立ち回り、見事に切り盛りしたかと思わせて……。レイヤーケーキ(裏社会)の怖さ、厳しさを見せつつ、ちょいと意外な結末が用意されている。
『レイヤーケーキ』は、もともとはガイ・リッチーが監督する予定だったが、何らかの事情により、『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(98年、英)の製作者、マシュー・ヴォーンが初監督することになった。いかにも英国の不良映画らしく、少々グダグダしており、このゆるさをわかって見に行く人、英国の裏社会によほど興味がある人以外には、ちょいとすすめにくい。