『M:i:III』75点(100点満点中)
1と2の中間あたりを狙った、安定感ある大作
いまや、トム・クルーズの代名詞的シリーズとなった、ミッションインポッシブルの第3弾がこれ。監督やトム様の相手役の人選を巡って二転三転、完成は遅れに遅れ、ようやく公開である。
今回、トム・クルーズ演じるスパイ、イーサン・ハントは諜報員を引退し、スパイ教育係となっている。一般人の女性と婚約もすみ、あとは悠々自適だと思っていた矢先、招集がかかる。教え子のスパイが捕らえられ、その救出作戦にあたってくれというのだ。
さて、このパート3は、ジョン・ウー監督のお気楽アクション=M:i-2 の反省を踏まえてか、オリジナルのテレビ版の魅力であった、「スパイ仲間のチームプレイ」要素をやや濃くさせたものになっている。大雑把な印象としては、パート1とパート2を足して2で割った、という感じだ。
莫大な予算を投じた映画だから、アクションシーンは当然、大掛かりで派手だ。おまけにどれも、安直に作ったものではなく、ひと手間加えた本格的な仕上がりになっている。
たとえば、風力発電所のプロペラの合間で繰り広げるヘリコプターチェイスひとつとってみても、ただ追いかけっこするだけではない。逃げるヘリの中では、まったく別の大ピンチが展開しており、複合的にスリルを盛り上げる。そんな工夫が随所に見られる。
最大の見所となる、橋の上での爆撃機と人間の一騎打ちの場面も、特殊効果とトム・クルーズの体を張った演技が相なって、すばらしいものに仕上がっている。予告編で流しすぎているのが玉にキズだが、この場面の映像表現には、新鮮味が感じられてとてもいい。
『M:i:III』に限らずこのシリーズは、どれもトム・クルーズが(単なるいち出演者ではなく)特別の思い入れをもって製作に参加している。自らが製作費を集め、自分の名前を前面に押し出して客も集める。『ミッション・インポッシブル』シリーズは、大スタートム・クルーズ自らが、世界中の人々に、自分を見てもらうために作った映画だ。
だから観客としても、150億円かけた彼の名刺を見るつもりで、劇場に出かけるのが正しい。間違っても、「まるでトムクルーズのプロモーションビデオみたいだ」などと、的外れな批判をしてはならない。それはリンゴを食べて、「なんだこれ、リンゴじゃないか」と怒っているのと同じことだ。
それにしても、この映画のトム・クルーズは素晴らしい。身のこなしが洗練されていて、サブマシンガンの構えひとつ見ても、うっとりとさせられる。歩くだけ、もしくは走るだけで、観客の目を喜ばせる。
アクション面は2作目ほど凄くはないし、ストーリーも破綻なくまとまってはいるものの、それほど印象深いものではない。しかしそれでも、お客さんは入場料の元は取ったと感じながら帰途につくだろう。それはひとえに、トム・クルーズの存在感のおかげである。そういう事が出来る俳優は、ハリウッド広しといえど、そう多くはない。