『ジャスミンの花開く』40点(100点満点中)

男と時代に振り回される女の半生記

『ジャスミンの花開く』は、3世代の母子を3部構成で描く女性映画だ。3つの時代をそれぞれたくましく生き抜く母娘を、"アジアン・ビューティー"チャン・ツィイーと、ハリウッドでも活躍しているジョアン・チェンが一人三役までこなして演じている。

物語はまず1930年から始まる。ここでツィイーが演じる18歳の茉(モー)は、実家の写真館を母と営んでいる。何より映画が好きで、ムービースターを夢見る世間知らずの彼女だが、偶然にも映画会社の社長にスカウトされる。

第二部は1950年。今度は茉の娘、莉(リー)をツィイーが演じる。このヒロインも気が強く、せっかく中流以上の暮らしをしているのに、労働者階級の男と恋してしまう。ジョアン演じる母親は強く反対するが、莉は強引に家を出る。

第三部は1980年。またまたツィイー演じる莉の娘、花(ホア)は、ジョアン演じる祖母の茉と二人暮らし。明るくやさしい娘に成長した花は、茉の反対を振り切り遠距離の夫を持つが、やがて休暇がきても、彼が帰ってくることはなかった。

特徴的な3つの時代の中国を背景に、3世代の"不幸な女"の人生が描かれる。ちなみに、3人の名前をつなげると茉莉花=ジャスミンとなる。ツィイー演じる各時代のヒロインは、美しいが男運がなく、どの時代においても男に振り回される。夢半ばで挫折した茉(モー)が、おばあちゃんに近くなっても、家にきた若い男の子を自分の好きな映画スターの名前で呼ぶあたり、心の傷の深さを感じさせられ、とても痛々しい。

3人のヒロインは母娘だけあってか、常に似たような失敗をする。ところが、第3部においては悲壮感が抑えられ、希望を感じさせるエピソードも配置されている。やってることは大して変わらないのに、現代の中国に近づくにつれ、幸福感が増していくわけだ。このあたりが、この映画の構成でもっとも興味深いところ。かつての中国では、確かにシングルの女性は生きにくかったが、今は違いますよ、と観客の潜在意識に訴えかける形になっている。

本当は、暗部も含めて歴史的背景をちゃんと描いてくれれば深みも出るのだが、中国映画だからそれはムリ。よって、かなり薄っぺらいお話になっているのが残念なところ。ストーリーに起伏がないから面白みもないし、チャン・ツィイーは相変わらずのお嬢さん演技で、アイドルの域を出ていない。出産シーンを「体当たり演技」などと表現する向きもあるが、それはあくまで宣伝文句。

とはいえ、彼女のファンにとっては、歌唱シーンのかわいらしさや、綺麗に撮ってもらっている肌の白さは見所のひとつになろう。ちなみに、パンフレットに「これは女優を見る映画だ」などと書いてあるが、それは、内容がつまらないときの評論家の常套句だ。間に受けて宣伝文にするのは、いかがなものかと思う。

個人的には、古い時代の中国の風習(庶民階級はトイレ用のツボを寝るとき部屋に置いておく等々)が見られたのはなかなか面白かった。ただし、予告編は恋愛がどうこうと言っているが、これは恋愛ものではなく、あくまで3人の女の半生を淡々と描く地味な映画なので、ご注意を。



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