『カサノバ』55点(100点満点中)

女性向きの、良質時代劇ロマコメ

ジャコモ・カサノバは、18世紀に実在した人物。作家や政治家、スパイなど、多彩な顔をもつが、なんといっても歴史上最高のプレイボーイとしてその名を知られている。映画『カサノバ』は、彼を主人公に、多分にフィクションの要素を取り入れ、いわゆるラブコメに仕上げた一本である。

歴史的なイケメンとされるカサノバを演じるのは、先日『ブロークバック・マウンテン』でも主演したヒース・レジャー。これまでこの人物を演じてきた映画俳優は数多いが、個性が強くない分、万人に好かれそうなカサノバ像を作り出している。

修道女と寝るなど、奔放すぎるふるまいで教会から追われるカサノバは、次のカーニバルが終わるまでに結婚相手を見つけねば、ヴェネチアを追放すると宣告される。そこで彼は、ヴェネチア一の美人といわれる良家の子女(ナタリー・ドーマー)に目をつけるが、同時に彼女を狙っていた男(チャーリー・コックス)に決闘を申し込まれてしまう。

この決闘が彼にとってのターニングポイントで、ある事情によりここでカサノバは運命の人、フランチェスカ(シエナ・ミラー)の魅力に気づく。

そこからは、伏線満載の様々なエピソード交えながら、恋のゲームが繰り広げられていく。合間には、美しいヴェネチアの景色をバックにしたアクションシーンも織り交ぜられ、観客は退屈せずこの物語を満喫できる。Hシーンもあるにはあるが、ディズニー系の映画だから過激なハダカはなし。ソフトでロマンティックなものだ。

主人公以外にも何組かのカップルが出来上がる、『ラブ・アクチュアリー』時代劇版のような趣きで、ロマコメ好きな方には大いに向く映画となっている。プチエロかつユーモアたっぷりの会話で笑わせてくれる品のいいコメディだから、とくに女性にすすめたい。

インターネットが普及して、相手探しに困ることがなくなった今では、100人斬りなんて男性も珍しくはないが、カサノバはこの時代になんと1000人斬り達成のスーパーナンパ師である。この映画の中では、一応どの恋も本気だったなどと言っているが、そんなものはナンパ師の常套句。本来なら、よっぽど純粋な女性客の一部くらいしか信じやしまい。しかし、そんなファンタジーでも、なんとなく信じさせてくれるロマンティックさが、この映画にはある。

また『カサノバ』は、カップルにとっても、適度な刺激を与えてくれる良いデートムービーとなろう。それは、さあ、このあとご自由に盛り上がってくださいね、といわんばかりの、ちょうど良い刺激である。映像が美しく、下品さがないから、そうした目的には最適の映画にちがいない。



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