『さよなら、僕らの夏』70点(100点満点中)

スリリングな10代の時間を見事に表現した青春映画

『さよなら、僕らの夏』は、ある少年たちの一夏の出来事を描いた青春映画。わずか87分間のドラマだが、もともとこの脚本は映画化前から高く評価されていたもので、出来上がった本作もサンダンス映画祭ほか、各国で絶賛を浴びた。

出来をみると、監督の心理描写センスが優れており、美しい風景とそこでおきる恐ろしい出来事を、緊迫感あふれる演出で見事に表現している。数千万円という、比較的低予算でつくられた、作家性あふれる映画だが、見ごたえは下手な大作映画よりはるかにある。

主人公の中学生サム(ロリー・カルキン……名子役だったマコーレー・カルキンの弟だ)は、同級生ジョージからイジメをうけていた。それを知ったサムの兄は、友人らとジョージをこらしめる計画を立てる。それは、サムの誕生日を装ってジョージを川下りに誘い出し、泳げない彼を川に放り出して笑うというたわいもないものだった。ところが当日、ボートに乗って出かけた彼らの前には、予想外の恐ろしい出来事が待ち受けていた。

このお話は、監督がかつて受けたイジメの体験をもとに、いじめる人間の心理を思索した結果生まれたドラマだという。非常に上手いなと思うのは、丁寧に描かれる登場人物の内面の設定である。

たとえばサムは、理不尽ないじめに悩んでいるが、面倒見のいい兄や、その攻撃的な友人らが勝手に進めた復讐計画に、徐々についていけなくなる。なにしろジョージが、鈍いところはあるがじつは案外いいやつで、誕生日プレゼントに高価なおもちゃなどを持ってきたりするもんだから、余計に罪悪感ばかりつのる。

弟思いの兄も、その様子を見、サムの気持ちを聞いて計画撤回を決めるが、わざわざ母の車を勝手に持ち出してまで計画に加わった友人が納得しない。やがて一抹の不安をかかえたまま、一行のボートは破滅に向かっていくのである。

他人に流されやすい10代ならではの心理、そしてアクシデントが起きたときのたよりない論理、そうしたものを明快に、リアルに描いていて面白い。キラキラと輝く美しい水面、そして景色は、まだピュアな彼らの心を象徴しているようだ。

『さよなら、僕らの夏』は、ティーンエイジャーの心のダークな一面、青春の残酷な1ページを切り取った物語で、その強烈なリアリティに一気に引き込まれる佳作だ。

楽しいお話ではないかもしれないが、サスペンスフルな展開は見ごたえ十分だし、ラストは「いじめる側といじめられる側」の関係性について、大いに考えさせられる。大人が鑑賞するに耐える、おすすめの一本だ。



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