『君に捧げる初恋』60点(100点満点中)
予告編の反則度合いの高さも、十分楽しまねばならない
『君に捧げる初恋』には、なぜかのっけから男の尻ばかり出てくる。さらに、チン○だのなんだのといった下ネタや、やたらと殴る蹴る場面が続く品のなさに、何人かの観客は、観始めて30分もたつと早くも席を立ちたくなるであろう。韓国映画界のコメディスター、チャ・テヒョンと、『私の頭の中の消しゴム』で知られる清純派女優ソン・イェジンが共演した話題作にしては、意外なほど、つまらない出だしである。
しかし、である。できればもう少しがんばって、席に座っていてほしい。そこから数十分後にこの映画は大きく変貌を遂げ、韓国映画ファンを大喜びさせる王道の展開へと突き進んでいくからだ。
チャ・テヒョンが演じるのは、普段の優柔不断キャラとはちょっと違い、好きな女の子には頭が上がらないものの、思い込んだら一直線の、猪突猛進直情型の男の子だ。対するヒロインのソン・イェジンは、好きな男のためには水着姿で誘惑することもいとわない、これまでのおとなしい清純派とはかなり違ったコメディエンヌぶりを見せる。
この二人は幼馴染で男は女と結婚したいが、堅物の父に邪魔されて望みがかなわない。しかもこの父、成績最下位クラスの男に、一流大学への合格とか、司法試験に受かれとか無理難題を押し付けて、ダメなら娘は嫁にやらん、などという。かくして、ヒロインをものにすべく、主人公の猛勉強がはじまるというわけだ。
予告編は"素敵なロマンティックラブストーリー"風に演出されているが、中身はドタバタ下品ラブコメ。最初に書いたように、前半はかなり退屈で、日本人には感覚的にわかりにくく、どこを笑えばいいのかよくわからない。おまけに、女のキャラがコロコロ変わり、最初はお高くとまっていたくせに、急に主人公を半裸で誘惑したり(ソン・イェジンが、微乳を必死によせて谷間を作っているあたり、なかなかの見所であろう)、キスを迫ってみたりとわけがわからない。シナリオにあわせ、性格が急変するとは、じつに便利なにんげんたちである。
ところがどっこい、一応これらの奇妙な展開には、終盤ひとつの答えが提示される。……と、たいそうなことを書いてみたが、結局のところは、いつもの韓国映画の王道、○○○○である。これにはさすがに私も仰天した。またそのネタか。そんなんでいいのか。まあ、(私は)面白かったからいいが。そのうち映画館で、いいかげんにしろと怒り出す人が出てくるのではないかと心配になる。
そしてこの、韓流映画界伝家の宝刀を抜いたあとは、それを存分に使ってお涙頂戴展開へと移行する。そこまではお下劣ギャグ映画だったのに、この極端な変貌。やはり韓国恋愛モノはあなどれない。
とはいえ、この強引すぎるほどの針路変更のおかげで、この映画がそこそこの満足度になっているのも事実。正直なところ、マジメな気持ちでみるにはあまりにばかばかしい内容だが、ツッコミ満載の恋愛エンタテイメントとして観ると、なかなか面白い。
つまりこれは、韓流モノに何を求めるかの問題であり、たとえばセカチューや冬ソナをギャグものだと思っている人は、この映画は十二分に楽しめる。あるいは逆に、それらを感動恋愛ドラマと認識している人も、それなりに楽しめよう。一番この作品に向いていないのは、韓流ドラマのご都合主義的展開やワンパターンに、目くじらを立てるタイプの人である。