『オーメン』60点(100点満点中)

忠実なリメイクだが、オリジナルを上回る点なし

今週の作品はたいてい10日(土)公開であるが、この『オーメン』だけは6日(火)公開だ。なぜかといえば、この日が06年6月6日であるからにほかならない。そう、本作の公開日は、1000年に一度の6並びの日、なのである。『オーメン』を公開するなら、この日を置いてほかにない。

66年6月6日も6が並んでるじゃねえか、50年に1度だろ、という声もあるかもしれないが、6が3つだけ並ぶというのがこの映画のポイントだし、1000年期に1度だけと思えばありがたみも増すので、あまり深くは考えまい。

さて、ではなぜ6が並ぶとオーメンなのかといえば、この映画の主人公が、キリスト教の不吉な数字、「獣」をあらわす「666」の刻印を身に受けた「悪魔の子」であるからだ。6月6日6時に誕生したこの呪われた子供、ダミアンの周りで巻き起こる、不気味な事故、事件、現象のたぐいをショックシーン満載で描くのが、この恐怖映画「オーメン」である。

多くの方はご存知のように、本作は1976年の同名映画のリメイク。今年は偶然6並びの年なので、こりゃちょうどいいやと、リメイク企画が持ち上がったのであろう事は想像に難くない。内容は、オリジナルに忠実なリメイクで、一部を除き、ほとんど変更は行われていない。近年の下品なビックリホラーとは違った、宗教的で格調高い雰囲気を持つ悪魔もの恐怖映画だ。

子供を熱望していた大使夫婦だが、残念ながら生まれた子供は直後に死亡。しかしそれを妻に伝えられない夫は、神父のすすめで同時刻に誕生した別の赤ん坊を我が子と偽って妻に渡してしまう。神父によると、その子の母親は出産後に死亡、身よりは一切ないのだという。これは神の御心です、との言葉につい流されて、その子ダミアンを引きとったのが彼ら夫婦の運の尽き、であった。

リメイク版『オーメン』は、いまどきの映画らしく、オリジナルよりはずっと物語がスムースに、そつなく進む。芝居がかった様子は一切ない。

ただし、VFXの技術が進んだわりには、ショックシーンの衝撃はオリジナルよりかなり劣る。首つりや首ちょんぱ場面もちゃんとあるが、見せ方が平凡で驚きが少ない(とはいっても、初めて見る人はびっくりするだろう)。オリジナルの、たとえば芸術的なまでの首切断シーン、あの、観ていて感心さえする完成度の高さは、本作にはない。微妙に新アイデアを加え、見せ方を変えているが、それがかえって劣化を招いてしまっている。

ダミアン役のシーマス・デイヴィー=フィッツパトリックは、オリジナルよりも不気味な雰囲気を持っていて、なかなか良い。ちなみに、ダミアンの乳母となるのは、スキャンダラスな私生活で知られる女優ミア・ファローで、これが意外なほどはまったキャスティング。役者陣は総じて良い印象である。

ただ、ダミアンが回りの死に少々介入しすぎている印象がある。この作品の怖いところは、純粋無垢にしか見えない、かわいい子供が、決して何かをしているわけではないのに、周りに死を招いていくという点で、だからこそラストの父親の行動に観客も共感し、一緒に翻弄される。

しかしこのリメイク版では、ダミアンの顔も行動も怪しすぎて、かなり早い段階から観客はこの子供をさっさと殺せ、という気持ちになってくる。こうなると、単なるモンスター退治ものになりかねないわけで、オーメンの本質が変わってしまう。

また、そもそもオカルトネタ自体が、今の観客にとってはどうしても「古臭く」感じてしまうであろう事も否めない。

結局のところ、新『オーメン』は決して悪い出来ではないが、6並びの日があるからもう一回作ってみようか、といって作られたような映画である以上(違うかもしれないが、その程度の思い入れで作ったように見える)、それほど多くの期待をすべき映画ではない。もともとのファンが、リメイクの出来を確認しにいく、というのはアリかもしれないが。



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